本研究の目的は、知的財産法分野の先行研究を租税法領域に持ち込むことができるか否かを検討し、さらに、アメリカ租税法との比較法研究の手法を用いることで、知的財産権の固有性を評価に反映しつつも、評価に合理性、客観性を持つ評価手法を、具体的に提示することにある。 本年度は、アメリカでの現地調査を行い、知的財産権の保護を重視するアメリカでは租税法上いかなる立法措置が講じられているかを検証し、合理的かつ客観的な知的財産権の評価の仕組みをいかに構築すべきかを提示することを目指した。そこで、知的財産の評価の妥当性を検証するための一つの手段として、アメリカにおける知的財産法制度が知的財産の評価に及ぼす影響をめぐる議論を研究した。 研究の結果、以下のことを明らかにすることができた。租税法分野における知的財産の評価でも、知的財産の評価をめぐる訴訟で採用された証拠や評価手法、そして評価額算定のプロセスを参考に、知的財産の評価額の妥当性が検証されるべきである。また、知的財産の価値はその固有性に見出されることから、類似比較対象を用いた評価は難しいとされつつも、検討を行ったアメリカにおける裁判例では、実質的に同質な比較対象取引が存在するか否かについて具体的に検討している。評価の客観性を担保するためには、他の資産評価と同様に知的財産の評価でも、まずは類似比較対象を用いた評価ができるかどうかが検証されるべきであるいえる。 もっとも、アメリカと我が国での知的財産法制度の差異に十分に注意を払ったうえで、今後の我が国における知的財産の評価手法が検討されなければならないと結論付けることができた。
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