長寿社会の日本において,高齢者には,身体的健康や認知機能の低下に抗うだけでなく,残された人生をいかに豊かに生きるかが問われる。老いを経験しながら自分らしく生きることが現在の高齢者の課題であり,この点について心理的支援が求められるところである。そこで本研究では自律性に着目し,精神的健康との関連を検討することを目的とした。 高齢者における自律性 (autonomy) は,身体的な能力の衰退と,社会における自身の立場の両面から認められる限界に直面する中で,助力を必要としながらも,自身の意思性と独立性を維持すること,と定義される。特に,決定権を放棄したり,援助を受けることによる恥の生起は,精神的健康との関連が示唆される。 本研究では,まず高齢者に半構造化面接を行い,語りのレベルでの自律性の検討を行った。その結果,自律性の感覚は,日常生活全般および高齢者自身の身体・精神面においても意識されていることが示された。ただし,恥の感覚は発話レベルでは表出されにくかった。これは,面接調査と語りの切片化という方法論の限界でもあると考えられた。 このことから,今後は語りを切片化せずに分析することと,羞恥感情を含めた質問紙調査を行うことが課題としてあげられた。
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