研究概要 |
本研究の目的は,人間の視覚的空間定位のメカニズムを明らかにすることである。この目的のもと行った本年度の研究成果は,2本の査読付き論文となって公表された(Yamada, Sasaki, & Miura, in press; Yamada et al., in press)。一つ目の論文では,運動物体がある位置に来ることを予測するメカニズムが高次認知の影響を受けることを実証した。二つ目の論文では,上下方向の身体運動によって対象への認知が変容することを示した。これらの研究はともに環境と身体の空間情報が人間の認知処理と深く結びついていることを示した。また2件の招待講演によりこれまでの研究が広く国内に発表され,高い評価を受けた(山田,2013,2014)。研究成果を総合すると,本研究期間には,人間の空間認知処理システムは視対象だけでなく観察者側の身体情報や事前知識を総動員することでその対象の現在の空間位置を決定しようとしていることが示唆され,そこでは視覚的注意の空間分布が非常に大きな役割を果たすことが明らかになった。特にYamada & Kawabe (2013)では,視野内の特定の空間位置に注意が偏った際に,物体位置がずれて記憶されることを明らかにしており,上記の示唆を強く補強している。本研究によって,人間が注意を媒介として視覚的空間定位を行っていることが分かったが,その神経基盤,変調様式,身体行為との関係などが明らかになっておらず,さらなる課題として浮かび上がった(そしてこのことは本研究の予定していた範疇を超えている)。今後はこれらの実証的検討を進めていくことが強く望まれ,本研究はその礎として大きな意味を持つものである。
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