前年度は実験で使用するための刺激セットの作成を行った。大学生を対象とした調査を通して,5カテゴリー(ニュートラル表情,快表情,自己志向的ネガティブ表情,他者志向的ネガティブ表情,覚醒表情)各4枚,合計20枚の表情写真を選定した。なお,各カテゴリーの中には男性典型表情,男性非典型表情,女性典型表情,女性非典型表情が含まれている(真顔については,どの情動も読み取られていないものを典型,複数の情動が高く評定されているものを非典型とした)。本年度はこれら刺激セット作成のプロセスと作成された刺激セットの特徴について各種学会で報告するとともに,それらをまとめて学術論文にて発表した。 このほか,前年度の調査・実験の成果を基にして作成された実験プログラムを使用した実験と調査を実施した。本年度実施した実験・調査の目的は「内的作業モデルと社会的適応との関連を表情認知の個人差が媒介している」という仮説を検証することである。表情刺激を十分に精査できる状況での情動認知の個人差を測定するための調査と,表情刺激の呈示時間が短く,瞬間的に情報を処理しなければならない状況での情動認知の個人差を測定するための実験を実施した。 内的作業モデルが不安定であるほど(1)ネガティブ表情の判断が速く,(2)実際とは異なるネガティブな情動が表出されていると判断しやすい,(3)非典型表情からより多くのネガティブ情動を読み取り,ネガティブ情動の読み取りが多い人は適応感が低い,という仮説を設定している。 今後は,実験で得られたデータを解析し,成果を報告していく予定である。
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