本年度の研究は、主として田川市議会議事録の分析および地域実践活動の歴史的分析をおこなった。また、福岡県を中心に歴史史料の収集および現代的実践に関する資料の収集・分析作業をおこなった。その結果、旧産炭地域では広域行政ネットワークを形成することで、課題の共有化と地域の実情(財政問題も含む)の道県レベルでの情報の相互共有をおこなっていたことが明らかとなった。その対象地域は、北から北海道、福島県、茨城県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県(該当自治体は荒尾市のみ)と広範囲におよぶ。生活保護世帯に対する地域レベルでの支援ネットワークの形成においては、こうした広域行政ネットワークの果たした一定の役割があったのではないかという、同時代的特徴と時代背景を明らかにすることができた。広域行政ネットワークは1950年代後半に生起したものであるが、現代社会においても広域的に問題状況を共有し、自治体間の問題を詳らかにしていくことは、生活保護世帯に対する支援ネットワークの形成を進める上で一定の意味があると思われる。また、田川市の公民館活動史料の分析の結果、1960年代の田川市の公民館活動においては、生活保護世帯住民が地域の活動に包摂されていた可能性があることが示唆された。このことは、従来社会教育の対象として看過されてきた生活保護受給者が地域活動に参加していた可能性を示すものであった。詳細は今後の質的分析を俟たなければならないが、生活保護世帯に対する支援ネットワークの一部に公民館が位置付いていた可能性がある。とはいえ、限られた史料を分析し、現代的な実践をみるなかでわかるのは、生活保護受給者を学習する主体として地域社会に位置付け、学習する権利をいかに構想するかという議論がそれほど多くはないということである。課題は多いものの生活保護受給者を学習者として位置づけられるかどうかは今後の大きな課題である。
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