本研究では、小学校や児童養護施設での定期的なフィールドワークにより、年齢相応の基礎学力が身についていなかったり、学習意欲が極端に低かったりする子どもたちの事例を収集してきた。事例の考察によって、学習や他者関係に困難を抱えてしまう子どもたちのありようを、彼らの思いや状況に即して捉えなおし、彼らを理解・支援するための新たな視点を提供することが、本研究の目的である。 本年度は、国内のフィールドワークに加え、移民が特に多い地域にあるイギリスの公立小学校でのフィールド調査を行なった。この調査からは、特別支援の必要性をオープンにすることにより、個々の子どものニーズに即した、経済的・物質的支援や、人的支援(補教体制の充実や多職種によるチーム支援体制)がなされていることが明らかになった。今後の研究の展開に活かしたい。 以上の調査に基づく本年度の実績として、調査報告書を兼ねた事例集の発行、ならびに、本研究成果に基づく著書を2冊発刊した(共同研究者との共著)。 1冊目の著書では、虐待、低学力、いじめ、非行、進路選択など多様な教育問題に、子どもたちの自己肯定感の低さが関わっていることを明らかにした。この場合の自己肯定感とは、他者と比べることで高まるような自己肯定感ではなく、自分の悪いところも含めて自分として愛せることを支えるような自己肯定感である。それを本書では、先行研究をふまえて、「基本的な自尊感情」と呼んだ。 2冊目は、幼稚園、小学校、児童福祉施設、フリースクールといった多様な教育機関における人間理解についての事例集である。事例の考察からは、低学力であったり、暴力的であったり、自分の進路を自分で選択できなかったりする子どもの背景に、基本的な自己肯定感の欠如があることが示された。その結果から、子どもの行動に対症療法的に関わるのではなく、まずは自己肯定感を高める関わりが必要であることを述べた。
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