本研究は,博士論文『デュガルド・スチュアートの経済思想――アダム・スミス以後の経済学の一展開――』(2012年3月)を基礎とし,さらに広い視野の下で行われる発展的研究である.本研究は,イングランドとは異なる,スミスからデュガルド・スチュアート(両者ともスコットランドのエディンバラ出身)へのスコットランド独自の経済学の系譜を明らかにする重要度の高い研究である. 当該年度では,スミス以後の経済学において,経済学と教育がいかに関係しているのかを明らかにするために,デュガルド・スチュアートにおける経済学と教育との関連について特に考察した.スチュアートの『経済学講義』第4編「下層階級の教育について」のテキスト分析に加えて,数多くの書簡類の分析の中から本研究に必要な「フランシス・ホーナーからの手紙」や「ジェファーソンからの手紙」などの書簡類も考察した.そして,スミスの教育論との比較を通じて,スチュアートにおける経済学と教育とが独自の視点を有している点を明らかにした. この成果により,従来の経済学の歴史・経済思想史の系譜(スミス→マルサス,リカードウ)とは異なり,教育を特に重んじるスコットランドの経済学の新たな系譜の存在(スミス→スチュアート)の一端を示すことを可能にしたといえる.もっとも,この研究の余地はまだあるにしても,従来,スチュアートにおける経済学と教育に関する研究が十分になされていない中で,当該年度内での研究目的を果たすことができたと考える. そのほかに,スミス以後のスコットランドの経済学の展開を理解するうえでも不可欠な研究であるエディンバラ・レヴュアーの考察も行った.特に,スチュアートの高弟であるフランシス・ジェフリの手書き草稿等の分析を通じて彼の経済思想について検討している.
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