研究課題/領域番号 |
24830082
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
樋浦 郷子 帝京大学, 理工学部, 講師 (30631882)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 植民地教育 / 近代日本教育史 |
研究概要 |
平成24年9月中に、植民地期朝鮮への「御真影」下付状況調査を終え、可能な限りの分析を行い、同月の教育史学会第56大会で研究発表(「植民地朝鮮の「御真影」―不在と遍在」)を行った。科研費スタート支援採択以前から蓄積してきた研究に、平成24年9月以降進めた研究成果を含めて、平成25年3月に単著『神社・学校・植民地 逆機能する朝鮮支配』(京都大学学術出版会)として出版した。 「御真影」下付状況調査と分析の次の調査研究課題として、「研究実施計画」において「旧植民地における敬神教育関係調査」を掲げた。このことに関しては、児童の夏季休業中の自己学習教材である『夏期学習帖』が、具体的な分析対象として浮かび上がってきた。当時(大正―昭和期)の『夏期学習帖』の中で、教育勅語の暗誦を毎日指示するものが発見できたためである。平成25年夏までは、植民地期朝鮮で発行されたものも含めて、全国で刊行されていた『夏期学習帖』を可能な限り収集し、そこに現れる修身・敬神教育の実態分析を試みる予定である。 その後、昨秋の研究発表(「植民地朝鮮の「御真影」―不在と遍在」)を単著学術論文として査読付全国誌に投稿し、さらに朝鮮にだけ施行された「皇国臣民の誓詞」(1937年10月)と帝国内全土に拡大していた教育勅語と比較しつつ、教科書での取り扱い等具体的な用いられ方のレベルに立ち入って検討をすすめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書類で掲げた「調査①植民地への下付状況調査」と「調査②-1、②-2日本と旧植民地における敬神教育関係調査」は、おおむね順調に進めることができた。①については、宮内公文書館で『御写真録』を調査・分析し、朝鮮においては首府「京城」をのぞいてはほとんど「御真影」が下付されなかった事実を論証し、教育史学会第56回大会で発表した。 調査②-2については、教育史学会発表後に、研究成果をふまえて博士学位論文(2011年学位認定)を大幅に加筆し、京都大学学術出版会から『神社・学校・植民地 逆機能する朝鮮支配』として刊行することができた。ただし、「②-1日本における敬神教育関係調査」(旧植民地を除く)に関しては、本来は千葉県に出向いての調査を予定していたものであるが、これを実施することができなかったため、完全に申請書通りに計画が達成されたとは言い難い。 しかし、当初考えていた千葉県東金小学校における「神棚教育」の実態に関して、山田恵吾『近代日本教員統制の展開―地方学務当局と小学校教員社会の関係史―』(学術出版会 2010年)と前田一男「戦時下教育実践の史的研究-東金小学校・国民学校を事例として-」『日本教育史研究』第14号(1995年8月)を読むことで、史実に関する理解を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる本年度には、引き続き「調査②-1日本における敬神教育関係調査」研究を進展させることとともに、「調査③神社と学校とが連携して実施されていた教育の実態調査」「調査④⑤日本と旧植民地における教科書・教育課程調査」に取りかかる予定である。調査②-1と調査③に関連して、『夏期学習帖』という自学のための課題を、新たな分析の対象として検討する必要性ができた。現代まで継続する児童・学校文化である自学課題である『夏季学習帖』を精査してみると、そこには修身学習がもれなくふくまれていることが判明したためである。そのため、まず本年度夏まで『夏期学習帖』に見られる敬神・神社崇敬教材の分析を進める。並行して台湾神職会会報の収集も可能な限り実施する。 9月と10月には、昨年の教育史学会発表「植民地朝鮮における「御真影」ー不在と遍在」を学術論文として投稿する。その後は、植民地朝鮮にのみ1937年10月から施行された「皇国臣民の誓詞」が、どのように朝鮮総督府編纂教科書の中で扱われるかを検討課題としている(調査④⑤に該当)。 これらを着実に実施するため、『夏季学習帖』調査に関しては、古書店で購入する方法を中心とし、さらに所蔵する博物館での撮影許可を願い、許可を得られれば撮影を行う。研究成果は、8月に予定されている研究会で経過報告を行う。 「皇国臣民の誓詞」と総督府編纂教科書の調査に関しては、昨年度購入した『日本教育政策史料集成』所載の編纂趣意書を読み込みつつ、総督府編纂教科書を所蔵している東書文庫や成城大学教育研究所において資料原本の閲覧、複写を行った上で分析と検討を行う。以上の調査に関連して、必要に応じて韓国での資料収集を実施する予定である。
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