平成24年度においては、電力中央研究所が所蔵する『日発文庫』を中心に史料調査を行った。調査の目的は、総括原価方式による電気料金認可制度が日本発送電株式会社の企業統治に与えた影響を会計行動の側面から明らかにすることであった。 その調査結果をもとに、明治学院大学経済学部の紀要である『明治学院大学経済研究』明治学院大学経済学部、第146号に「総括原価に方式による電気料金認可制度と日本発送電株式会社の企業統治―会計行動の側面から―」を執筆した(21ページより48ページまで)。 論文において明らかにしたのは、次の諸点である。日本発送電株式会社は戦時期に予算制度を構築したものの、予算が電気料金に反映されることはなかった。それは、電気料金は戦争遂行の関係から低位に抑えられ、そのかわり政府補給金という形で、日発に対する損失補てんが実施されたためであった。 戦後においては、政府補給金の廃止に伴い、電気料金の値上げが実施された。遅くとも1947年以降、電気料金の決定が費用計算とリンクするようになった。それは、値上げの根拠として、会計上の問題が関係するようになったことを意味する。そのため、日本発送電株式会社はしばしば政府に対して相対的に低い電気料金の値上げの根拠として、会計処理上の要求を行っていった。一方で、総括原価額の増加に基づく電気料金の値上げにより、消費者は電力会社に対して電気料金決定の基礎となる総括原価の適正な計算を求めるようになり、政府による電力会社に対する監査体制も合わせて強化されていった。
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