研究概要 |
失敗場面や教師から批判的評価を受ける批判場面での情動的反応には,ポジティブ情動を維持し次は上手くいくと考える「熟達志向型」と,ネガティブ情動を感じネガティブな自己認知を持つ「無力型」があり (Kamins & Dweck, 1999),これらの思考の個人差は幼児期から児童期に現れることが示されてきた。本研究の目的は,幼児期における他者からの批判的評価の受け止め方の年齢差・個人差を,認知発達および養育環境の観点から検討し,批判的な評価を前向きな意欲の維持や挑戦的取り組みに結びつける力の発達的基盤を明らかにすることである。 平成24年度は,年中児および年長児を対象に,Heyman, Cain, & Dweck (1992) をもとに作成した「他者からの評価課題」と「心の理論課題」を個別に実施した。さらに高崎 (2004) を参考に,インタビュー調査を実施し,幼児の目標志向性を測定した。年中児と年長児の課題における反応を比較することにより,創作活動での小さな失敗を他者から指摘される場面(以下,批判場面)における幼児の情動的反応(情動喚起,自己の作品評価,挑戦性),目標志向性,および他者の心の理解の年齢差について検討した。その結果,年長児の方が年中児よりも,他者の心的状態を理解していること,ラーニングゴール志向を持つこと,小さな失敗を他者から指摘される場面において,失敗した課題に再挑戦したいと判断することが示された。本研究の結果は,他者の心的状態をよく理解する子どもほど教師からの批判に脆弱になることを示した欧米圏の先行研究の知見とは必ずしも一致しないものであり,子ども期の他者からの評価の受け止め方には文化差がある可能性が示唆された。
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