本研究は、「北東アジア地域自治体連合(NEAR)」の事例考察を通じて、国家の論理とは異なるローカル次元の東北アジア・サブリージョン協力とガバナンスの特徴を析出することが目的であった。作年度は、NEAR全体像の実態把握に焦点を絞り、文献調査や一次資料の収集・整理および聞き取り調査などに注力した。本年度は、これらの調査・分析を継続するとともに、とくに、環境などの「争点志向型(issue-oriented)」の協力関係に焦点を当て、系統的な記述分析を行った。本研究の成果は博士論文として早稲田大学に学位請求し、平成26年2月に学位を取得した。現在、出版の準備を進めている。 以下、本研究の意義・学問的価値を挙げておく。 第1に、本研究は、冷戦の残滓があり、国家主権が強い東北アジア地域におけるNEARという広域自治体連合を事例にして、国境を越えた「自律的な国際行為体」のあり方を一般化して描き出している点に意義がある。NEARそのものの研究も、黎明期から現在までを定点観測的に体系化した研究は世界初であり、東北アジア研究分野のみならず国際政治におけるアクター分析への貢献も大きいといえよう。 第2に、これまで国家体制が異なることで看過されてきた地方政府同士の関係を、NEAR参加地方政府のクラスター分析などを用いてモデル化し、水平的な関係が成立することを立証したことの研究上の意義は大きい。 第3に、東北アジア地方政府間関係の動向分析、とくに、課題解決のための「内発的越境ガバナンス」が構築されつつあることを、環境プロジェクトの検証から証明したことは、地域主義研究分野における「アジア型研究モデル」の提示ともいうことが可能である。地域主義研究分野において、これまでの形式論理的な分析枠組みの弱点を「内発性」の視角で補強する、このような挑戦的研究の学問的価値は高いといえよう。
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