本研究では、世襲議員、および議員の年功(当選回数)の違いという2つの議員属性に着目し、主にその政府支出に対する効果をゲーム理論および日米のデータを用いて分析した。 世襲議員に関しては、以下の3点が示された。第1に、世襲議員は、より規模の大きな配分政策を、当該議員の選挙区が存在する地方自治体にもたらす。第2に、世襲議員は世襲ではない議員に比べ高い当選確率と得票率をもつ。第3に、より多くの世襲議員を選出した都道府県の経済成長は低まる。その理由として、世襲議員は補助金を多く集め、選挙に強いため、対立候補の立候補を思いとどまらせる傾向がある。そのため対立候補を気にせずに利益誘導を行うことができるという可能性を理論的に示した。 議員の年功に関しては、以下の2点が示された。第1に、議会が若手議員に占められている場合、あるいは逆に、年功の高い議員で占められている場合に政府支出は大きく、若手議員と年功の高い議員がバランスよく存在している場合に支出は低くなる。その理由として、議会内で年功の高い議員が若手議員の行動を律することにより、過大な政府支出を抑えている可能性を理論的に示した。 第2に、アメリカ州議会における多選禁止制の効果の分析も行った。多選禁止制とは、議員の当選回数に制約を課す制度である。その結果、議会内の年功を大きく減らすような厳しい多選禁止制が導入された場合には政府支出は増え、比較的温和な多選禁止制が導入された場合には支出を減らすことが示された。厳しい多選禁止制が導入された場合、議会が若手議員によって占められることになり、その結果、支出が増大したことが考えられる。 近年議論されることが多い議会改革に関する議論において、実際の議員属性の政策への影響を明らかにすることは重要である。政策提言に直結するような分析を示すことができたという点は、この研究の意義深い点だと考えられる。
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