本研究は、戦後日本社会の貧困世帯に対して行われた社会調査の再集計・再分析を行うことにより、3点の課題を明らかにすることを目的としていた。第1が、戦後日本社会における貧困層の量的把握と質的把握、第2が貧困の世代間連鎖関係の継時的把握、第3が貧困脱出過程における福祉や教育などの社会政策の有効性の検証にあった。 これらの目的を達成するために、「労働調査資料」のうち、「貧困層の形成(静岡)調査」(労働調査資料 No.55,1952年実施)と「「ボーダー・ライン層」調査」(労働調査資料 No.60,1961年実施)の復元とデータクリーニング作業を進め、分析を続けた。延べ5回の研究会を通じて、研究協力者との分析結果の検討を行い、平成25年3月には、東京大学社会科学研究所にて、公開の研究成果報告会を行った。 研究協力者とともに導出した成果は次のようなものである。まず、戦後日本の貧困層が、敗戦を契機にした貧困転落層、世帯主が健康を喪失したことによる貧困転落層と世代間連鎖のもとで貧困が継承されている層があることを明らかにし、また、この貧困層の量的把握を行った。その結果、貧困世帯の多くが、低収入の女性世帯主を稼得者とする世帯であったこと、一方で、貧困層の一部には高度経済成長の社会変化のなかで、貧困脱出の可能性も見られることを明らかにしてきた。戦後、発足した生活保護制度が1950年に改訂されるなかで、被保護者の範囲の拡大が掲げられたものの、実態運用として、無差別平等の原則が適用されているとは言いづらい当時の状況も明らかになった。 以上の研究成果およびデータの作成作業過程については、東京大学社会科学研究所の協力により報告書に成果をまとめたほか、雑誌論文への掲載も決定した。また、調書の通り、平成25年の日本社会学会大会テーマセッションに提案採択され、今後さらに研究成果を発表していく予定である。
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