子どもに対する〈支援〉の難点と技法を明らかにした前年度の研究成果をふまえ、本年度は、子どもの成長や発達を保障するうえで「市民による教育事業」が果たす役割や機能を再吟味した。具体的に行ったのは次の三つの作業である。 第一に、障害のある子どもが「通常の学級」で生活できる環境を整えるための〈支援〉を続けてきた保護者・地域住民のボランティアの活動について、研究成果をまとめた。①ボランティアの存在が学びの場に潜むスティグマを維持・強化し、障害のある子どもを従属的な地位に留め置くことになるとすれば、それはボランティアの活動が併せ持つ陥穽であると言えること、②ボランティアが障害のある子どもにだけ対処するのではなく、あえて全ての子どもに開かれた関係性を構築することによって、学びの場における差別や排除の構造にゆらぎをもたらす可能性が生じてくることを明らかにした。 第二に、公設民営のフリースクールが教育機関や福祉機関とどのような関係にあるのかについて調査を行い、〈支援〉の制度化を可能とするネットワークの諸相に迫った。フリースクールというのは、財政的・制度的基盤が脆弱であるものの、学校生活に困難を抱えた子どものニーズに柔軟な対応をしてきたという点で、「市民による教育事業」の代表的事例と言える。子どもに対する〈支援〉の充実に向けて、フリースクールと教育機関・福祉機関は緊張感のある互恵的な関係を築かねばならないことが、インタビュー調査によって明らかとなった。 第三に、前年度に引き続き教育課程特例校制度に関する調査を行った。同制度を活用して新設された「ものづくり・デザイン科」や「美郷科」などでは、各学校が地域との連携を図りながら授業を展開している。「市民による教育事業」が学校の教育活動の充実に資する可能性を有していること、そのためには市町村教育委員会によるマネジメントが重要となることを明らかにした。
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