本研究は、ABLにおける担保が、換価価値に加えて、金融機関と債務者である企業との情報・コミュニケーションの媒介という重要な役割を果たすことを、日米のプラクティスを比較することを通して、実証的に明らかにすることを目的とする。 アセット・ベースト・レンディング(動産・債権担保融資、以下「ABL」)は、在庫や売掛債権などの事業収益資産を担保とする、日本では比較的新しい融資手法である。ABLが一般的な融資手法として定着した米国では、その特徴として、担保を活用して貸手が与信管理に必要な情報を主体的に生産することが指摘される。ABLの重要な機能が、担保となった事業収益資産をモニタリングし、貸手が積極的に借手の事業の実態を把握することは米国では実務並びに銀行監督上の常識とされている可能性が高い。しかし、黎明期にある日本では、ABLにおける担保の意義を正しく認識せず、不動産担保と換価価値のみに求める傾向が強い。 本年度は、中堅地方銀行の協力を得て、ABLが実際にどのように行われているかのケーススタディーを行った。その結果、当該融資手法において担保は一義的には換価を目的とせず、貸手である銀行が借手の企業との接触頻度を高め、ソフト情報を入手するための手段として用いられていることが検証された。この調査結果は、米国において商業銀行が行うABLとの共通点が多く、今後のわが国におけるABLの発展、普及に重要な示唆を与えるものといえる。
|