研究概要 |
本研究の目的は、眼球運動の測定を通して、ロールシャッハ反応の産出時における色彩利用・形態利用過程を視覚的注意の観点から明らかにすることであった。加えて、ロールシャッハ色彩反応の解釈仮説の妥当性を、知覚心理学の理論に基づき説明することも目的の一つであった。 この目的を遂行するためには、各ロールシャッハ反応と関連性の高い眼球運動を把握するための、眼球運動測定手続きを確立する必要があった。本研究の大半は、この手続きの確立に費やされたが、その結果として複数の研究成果が発表された。この発表には国際雑誌への論文掲載1本(Yasuda, in press)も含まれている。よって、本研究で確立された、各ロールシャッハ反応に対応する眼球運動を測定する手続きは、今後、国際的な標準手続きとして多くの研究で用いられる可能性がある。 続いて、本研究の主要な目的である、色彩反応の解釈仮説の妥当性について、眼球運動測定法を用いて検証した結果について述べる。一般的な意味合いにおける色彩反応と非色彩反応との間には、眼球運動変数の差異は確認できず、色彩反応の解釈仮説の妥当性を示すには至らなかった。ただし、阪大法で扱われる、濃淡反応も含む「広義の色彩反応」の視点から分析を行ったところ、濃淡反応は非濃淡反応よりもインクブロット内部の濃淡領域を長時間注視することが確認された。このことは、質問段階での濃淡反応の説明が、反応段階での知覚過程を適切に反映できていることを意味している。すなわち、ロールシャッハ法の濃淡反応に関し、解釈仮説の根拠の一端を示す結果が本研究では得られたと言える。
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