本研究は、経済発展における民主主義の役割を明らかにすることを目的としており、本年度は、主に次の2つの研究成果を得た。 第1は、民族的多様性、政治体制、及び公共財供給の関係について考察した研究である。市民候補者モデルに基づき、政策の選好に異質性のある個人を仮定し、民主制・独裁制の下で、民族的多様性が政治家・政策の選択にどのような影響を及ぼすのかを検証した。理論分析では、(1)支配的な民族がいない場合の民主制と独裁制の下で、民族的多様性と公共財の質の間に負の関係があること、(2)支配的な民族がいる場合の民主制の下で、この関係が非単調であること、を導いた。実証分析では、157カ国のデータを用いて、公共財の質として健康の指標を使用し、理論分析の結果が成立することを明らかにした。この論文は、現在、国際学術雑誌に投稿中である。 第2は、金融グローバル化が経済成長に与える影響が、汚職の程度に応じて異なることを理論的・実証的に考察した研究である。汚職の深刻な国では高い税率が科されるため、そのような国で金融グローバル化が進行した場合、経済成長に悪影響を及ぼす。一方で、汚職の少ない国では、汚職の深刻な国から資本が流入するため、金融のグローバル化が汚職の経済成長に対する悪影響を軽減する。結果として、経済成長率は高い順に、(1)低汚職・開放的な金融制度、(2)低汚職・閉鎖的な金融制度、(3)高汚職・閉鎖的な金融制度、(4)高汚職・開放的な金融制度となることを理論分析から明らかにした。実証分析では、109カ国のデータを使用し、この結論が実証的に支持されることを示した。近年、金融グローバル化の利点・欠点が大きな政策的論点となっているが、このような論争に一つの見解を与えたことが本研究の貢献である。この研究は、国際学術雑誌International Economicsに近刊予定である。
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