今年度は、パンルヴェ常微分方程式の離散版の一つであるD7(1)型dパンルヴェ方程式の既約性を証明した。この方程式は2階代数的差分方程式で、特に双有理的である。離散パンルヴェ方程式の既約性はこれまでも研究されていたが、成果はすべてq差分方程式のもので、今回扱った通常の+δに関する差分方程式のものはなかった。既約性は分解可能拡大に超越関数解が属さないことにより定義される。これが意味するのは、例えば線形差分方程式や1階代数的差分方程式の解によっては超越関数解が(代数的に)表現できないということである。 上記の研究に関連して、分解可能拡大の定義の改良も行った。分解可能拡大の定義の中には係数拡大に対応するものがある。ここに有限超越次元であることをかしていたが、これを取り除くことができた。 また、今年度は本研究に関する論文が数本出版された。一つは1階有理的差分方程式の解の代数的独立性についてであり、差分超越性も扱っている。1階有理的差分方程式の解は必ず分解可能拡大に属すが、それらが有理式部分の次数により分類されることを示している。この結果により例えば、独立変数xと指数関数とワイエルシュトラスのペー関数が代数的独立であることが、倍角公式に現れる次数のみによって判定することができる。他には既約性を証明したものが2本あり、対象はそれぞれqパンルヴェIII型方程式とポワンカレの乗法公式である。前者は共著論文で、代数関数解も扱っている。
|