研究課題/領域番号 |
24840012
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 陽太郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30631676)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | マルチフェロイック / エレクトロマグノン / 電気磁気光学効果 / テラヘルツ / 磁気共鳴 |
研究概要 |
本研究では、誘電性(強誘電)と磁性が物質中で強く結合したマルチフェロイックと呼ばれる物質系の光学応答を対象にしている。強い電気磁気結合効果は、基底状態では磁場による強誘電性の制御などを可能にする。この現象の動的な応答に対応する光学応答では、通常の誘電応答や磁気応答、更にはメタマテリアルとも異なる電気磁気光学効果と呼ばれる現象が現れる。この電気磁気光学応答は光の電場と磁場が、物質中の分極、磁化の振動に同時に作用する時に現れるもので、光の進行方向を反転すると光学応答が変化する方向2色性と呼ばれる現象として観測される。この光学応答は強誘電分極や磁化の反転により制御できることから、新しい原理に基づいた光学素子の開拓を可能とする。巨大な応答を得ることで、絶縁体中でも負の屈折率が可能になる。この現象は10年ほど前に初めて実験的に観測され、その後のマルチフェロイックス物質への適用で、テラヘルツ、可視、X線領域などで観測されている。しかし最大でも屈折率にすると0.05程度であった。申請者は巨大な電気磁気光学応答をスピン波の励起を用いて実現するという目的のもと、本研究を遂行した。 これまでの研究から、強誘電分極を誘起するスピン構造が、エレクトロマグノンと呼ばれる光の電場に応答するスピン波の起源となることが明らかになっている。申請者は強誘電分極を誘起するサイクロイド型スピン構造では、エレクトロマグノンが電気磁気光学応答を示すことを明らかにしていた。本研究では、このエレクトロマグノンを、電気磁気効果を示さない交換歪に起因したエレクトロマグノンと結合させることにより、巨大な光学応答を実現することに成功した。エレクトロマグノンの共鳴における電気磁気光学効果の値は屈折率で1を超える巨大なもので、これまでに観測されたあらゆる領域の応答より1桁以上大きな応答の実現に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
24年度における研究計画ではサイクロイド型磁気構造が誘起する動的電気磁気効果として、電気磁気光学応答を広く展開することを目的として研究をおこなった。特に、これまで比較的小さな光学応答として観測されていたこの現象を巨大化する足掛かりをつかむという観点で研究を行った。マルチフェロイックの基底状態の電気磁気応答が動的に直接反映されるテラヘルツ領域に現れるエレクトロマグノンと呼ばれる電場に対する応答を示す磁気励起の応答の観測を行った。代表的なマルチフェロイック物質であるペロブスカイトマンガン酸化物は電気磁気効果を示すスピン流に起因したエレクトロマグノンと、電気磁気効果が存在しない交換歪に起因したエレクトロマグノンが共存する。両者がカップリング可能な条件を探り、巨大な振動子強度を持つ電気磁気共鳴を実現した。この結果として、(1)基底状態の分極の大きさにかかわらず、共鳴条件により電気磁気光学応答の巨大化が可能であること、(2)特にエレクトロマグノン間では大きなカップリングが起こり、振動子強度、電気磁気応答が相互に移動しあう、という基本的なエレクトロマグノンの電気磁気応答に関する性質を明らかにすることができた。 これは当初予想していた、巨大な電気磁気効果には巨大な強誘電分極が必要であるという指針を覆したものである。特に基底状態の分極が小さくても、共鳴条件を制御することで巨大な電気磁気光学応答を実現できるということを示した点は、今後のこの分野の展開に大きな意味を持っている。 以上のようにエレクトロマグノンとその電気磁気光学応答の基本的性質を明らかにするという点で、研究計画を十分に達成できている。またそこで得られた知見は、この新しい現象の広い展開の可能にするものであり、「(1)当初の計画以上に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究において、エレクトロマグノン間のカップリングが巨大な電気磁気光学応答をテラヘルツ領域に置いて引き起こすことを明らかにした。本年度はこの原理を用いて、巨大電気磁気光学効果を広く展開することを目指す。動的なエレクトロマグノン間のカップリングを見出すためには、基底状態のスピン構造や強誘電分極に関する情報が不可欠である。このため、マルチフェロイックの代表的物質群であるRMn2O5を対象として、巨大電気磁気光学応答の実現を目指す。この系では、交換歪によるエレクトロマグノンは観測されているが、電気磁気光学応答を引き起こすスピン流に起因したエレクトロマグのは観測されていない。このため、まずはこのエレクトロマグノンの観測を目指す。その後、エレクトロマグノン間のカップリングによる巨大電気磁気光学応答の実現を試みる。 一方、ヘリカルスピン構造が物質中にらせん型に巻いた強誘電分極を誘起することが、これまでのマルチフェロイック物質の研究から予想される。この時には、微視的な強誘電分極は互いに相殺するため、巨視的な強誘電分極を誘起することは無い。しかし、微視的ならせん状の分極は、結晶にキラリティーを誘起しうる。これは、磁気カイラル効果と呼ばれる電気磁気光学応答で検出することができる。現在まで、このように完全にスピン構造のみに由来した、結晶へのキラリティーの誘起という報告は無い。しかし、我々は予備実験において、ヘリカルスピン構造が巨大な磁気カイラル効果を誘起し、それがスピン波の共鳴として観測されるという結果を得ている。このような、らせんスピンによるキラリティー制御という方法により、新しい電気磁気効果の開拓を目指す。
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