本研究では、エレクトロマグノンにおける電気磁気光学効果に関する研究を行った。エレクトロマグノンと呼ばれる誘電応答を示すスピン波励起は、誘電性と磁性が強く結合したマルチフェロイックと呼ばれる物質系に特有のダイナミクスである。エレクトロマグノン内で振動分極と振動磁化が強く結びついているために、電磁波に対する応答において電気磁気光学効果と呼ばれる特異な光学応答が現れる。この応答は方向2色性と呼ばれる、光の進行方向によって光学応答が変化する現象として観測される。本研究では、電気磁気光学効果による巨大応答の実現と、新し原理に基づく電気磁気光学効果の探索を目指した研究を行った。 巨大応答については顕著な結果が得られた。従来電気磁気光学効果は非常に小さく、これまで報告された例では、最大でも屈折率で0.1以下であった。本研究では、ペロブスカイト型マンガン酸化物において、エレクトロマグノン間の相互カップリングにより電気磁気光学応答を20倍以上大きくすることに成功した。この結果、電気磁気光学効果由来の応答は屈折率の虚部で1を超える非常に大きな値をしめした。これは、現在まで観測されているあらゆる波長における電気磁気光学効果よりも1桁以上大きな値である。この増強効果の起源を探るため、2種類のエレクトロマグノンの振動子強度を定量的に測定し、両者の間で著しい振動子強度の移動が起こっていることを観測した。 一方新しい原理に基づく電気磁気光学効果として、スピン秩序由来の磁気カイラル効果の実現を目指した。磁気カイラル効果は、物質中でカイラリティと磁性が共存しているときに起こる電気磁気光学効果である。スピンがらせん型に秩序すると、スピンを起源としたカイラリティと磁化が誘起される。実際にらせん型がスピン秩序した物質においてエレクトロマグノンを観測し、巨大な電気磁気光学効果を実現することに成功した。
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