研究課題/領域番号 |
24840013
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荒木 幸治 東京大学, 物性研究所, 研究員 (00635013)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 非クラマース二重項 / 電気四極子 / 超音波 / 磁化 / 散逸量子系 |
研究概要 |
希土類化合物における局在4f電子状態の非クラマース二重項は、磁気双極子を持たずに電気四極子と磁気八極子の多極子のみを有する。非クラマース二重項基底を持つPrMg3の弾性定数(C11-C12)/2は、200 mK付近に超音波の測定周波数に依存する超音波分散を示す。これは、f電子の非クラマース二重項が格子振動と結合したバイブロニック状態の散逸量子系が実現している可能性が考えられる。超音波測定に用いたPrMg3の極低温・強磁場領域におけるキャパシタンス法によるDC磁化測定を行った。その結果、PrMg3の磁化率が、低温に下げるにつれてCurie的に増大し、10 K以下で非クラマース二重項基底から期待されるvan Vleck的な振る舞いから外れ、-logTの異常な温度依存性を示すことを明らかにした。さらに、磁場方向[001]下での4f電子の真の磁化率は、低磁場では測定最低温度(~ 100 mK)まで緩やかに上昇するのに対して、10 T以上の強磁場下では飽和する傾向が観測された。これは、磁場中で散逸量子状態が消失している可能性を示唆する。また、PrMg3の(C11-C12)/2の極低温・強磁場下での超音波実験を進め、磁場方向[001]の磁場依存性が単調に増大するのに対して、 [110]方向では単調に減少することを明らかにした。この弾性定数の大きな磁気異方性は、標準理論の四極子感受率では説明できない振る舞いであり、PrMg3の基底状態の解明に向けて重要な結果が得られた。今後より詳細な超音波、磁化、比熱測定を進め、散逸量子系と考えられる基底状態の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PrMg3の極低温・強磁場中での超音波、磁化測定を行った。その結果、弾性定数の大きな磁気異方性、及び磁化の異常な温度・磁場依存性を明らかにした。これは、PrMg3の散逸量子系と考えられる基底状態の解明に重要な結果であり、おおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
非クラマース二重項と格子振動との結合による散逸量子系を明らかにするためには、比熱、磁化率等の熱力学的諸量の詳細な温度・磁場依存性を調べることが重要である。ところが非クラマース二重項基底を持つPrAg2Inの純良単結晶試料を用いた詳細な実験が行われていないのが現状である。そこでPrAg2Inの極低温(~ 50 mK)、強磁場(17 T)下における磁化率、比熱の温度・磁場依存性を測定する。さらに最近になり発見された非クラマース二重項基底を持つPrTr2Al20 (Tr =Ti, V)の極低温磁化、比熱測定を行い、これまで得られた実験結果と比較検討し、散逸量子系の基底状態を解明する。
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