光子を用いた量子情報処理の実装においては想定を超えた光子数の発生が大きな障壁となっている。この障壁を打破するためには、光パルス中の光子数を計測できる光子数分解検出器の開発が必要不可欠である。本研究では、高い量子操作性とコヒーレンスを持つ冷却原子集団と高フィネス光共振器との間の強結合により得られる少数光子での光学非線形性を用いて、光パルスを光子数状態に応じて時間的に分離することを目的とする。これによりこれまでに開発された光子数分解検出器の弱点である量子効率の影響を緩和し、現存する単一光子検出器を用いて確実に光子数を測定できるようになることが期待される。 上記を踏まえ平成25年度は以下のような計画で研究を行った。(1)高フィネスミラーのフィネス低下の原因解明と共振器の安定性評価、(2)真空装置への共振器の導入、トラップ用光源の共振器に対する安定化、および共振器中での冷却原子集団の捕捉、(3)共振器周波数安定化用の参照共振器の開発および原子の近共鳴光と非共鳴光の同時安定化、(4)参照共振器を介した実験用共振器の原子共鳴に対する安定化および強結合の確認、(5)共振器から放出される光子の自己相関関数の時間依存性の測定。 (1)についてはミラー表面での損失がフィネス低下の原因と判明したためコーティングをやり直し、フィネスが改善した。また安定的に共振器モードが立つことを確認した。(2)については共振器を真空装置中に保持するマウントの設計を行った。(3)については参照共振器の開発および2種の光源と同時安定化用の電気回路の準備を完了し、これから安定化を行うところである。(4)については原子共鳴に対して安定化した参照光および電気回路の作製が完了した。現在行っている真空漏れの修理ができ次第(2)(4)(5)を完了させる予定である。また、光子統計の時間変化と光子数状態の時間分離の関係についての理論的な解析も行った。
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