研究概要 |
第一に、位数2の自己同型付きK3曲面のモジュライ空間の有理性問題に関する以前からの研究を継続して、2つの古典的な場合(平面6次曲線と2次曲面上の(4,4)次曲線)を除いたところまでモジュライの有理性を証明した。Dolgachev-金銅の論文から学んだ格子論の技術が、研究の進展に大きな役割を果たした。第二に、大橋久範氏と瀧真語氏との共同研究によって、位数3の自己同型付きK3曲面のモジュライ空間についても総計24個のうち2つを除いて有理性を証明した。その途上で、それらのK3曲面の基本理論を整備発展させた。特に混成分岐の概念を導入することで、それらのK3曲面の一般的にして効果的な三重被覆による構成方法を考案した。それを用いて、有理性を証明する途上で、モジュライの一般メンバーの標準的な構成法を見出だした。第三に、トリゴナル曲線のモジュライ空間の有理性を、未解決だった種数が4で割り切れる場合に証明した。これで全ての種数で有理性が確立された。証明ではSL(2)×SL(2)の古典的な共変式を利用した同変ベクトル束の構成が鍵となった。第四に、ゴナリティを1つ上げて、テトラゴナル曲線のモジュライ空間についても約半分の種数(12で割って余りが1,2,5,6,9,10となる場合)で有理性を証明した。その際はそれらの曲線が3次元スクロール多様体の完全交叉として得られるという事実を、モジュライの解析の出発点とした。また、研究の途上で、他の有理性問題にも適用可能なテクニック(グラスマン商空間に対する分解補題)を開発した。
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