本年度は保型形式を用いたIV型モジュラー多様体の小平次元の研究に全力を投入した。この方面の研究ではGritsenko-Hulek-Sankaranの方法というものが知られているが、それを一般化して以下の結果を順次得た。まずE8格子を直和することでモジュラー多様体の次元を増やしていく系列を調べ、充分次元が高ければ一般型になることを証明した。この過程でHirzebruch-Mumford体積の効果的かつ一般的な公式の形を得た。応用例として、奇ユニモジュラー格子から定まるモジュラー多様体は38次元以上で一般型であることがわかった。次に、Hirzebruch-Mumford体積の公式の形にヒントを得て、安定直交群から定まる17次元以上モジュラー多様体は本質的に有限個を除いて全て一般型になるという定理を証明できた。証明するまでは予期していなかった。その後この結果の改善に取り組み、「全直交群から定まる15次元以上のモジュラー多様体であって一般型でないものは有限個しかない」というところまでたどり着いた。上記2つの結果は定性的には乗り越えられた形になる。3番目の結果も、証明を終えるまでは予期していなかった。見通しの悪さを反省している。
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