研究結果をすべての人が受け入れやすい形で発信することは、我々科学者にとって重要な責務であると同時に困難な課題でもある。本研究では、微化石データを塩濃度や水深、気温や降水量といった物理量に正しく変換することを目指して定量的古環境復元のための基礎研究を行った。 1. 平成25年度は、前年度に設定した大阪湾の調査地点(全39点)において、春季・夏季の海水観測を行った。前年度に引き続き、表層堆積物コアの採取を行い、合計35本のコアを得た。コア表層部を用いて花粉分析、珪藻分析、硫黄分析、炭素・窒素同位体比測定を行った。7地点ではPb210・Cs137法を用いた年代測定も試みた。 2. コア表層部から得られた花粉化石データを用いて気温復元を行うと、気温復元値が観測値よりも約5℃低い値を取り、復元値のばらつきが復元誤差以上に大きいという問題の解決に着手した。大阪湾に堆積する花粉のシグナルのばらつきは、花粉組成が気候だけでなく、花粉の堆積過程や森林の攪乱など複数の要素により決まっており、時に気候以外の影響が花粉組成に大きく反映されてしまうことに起因することを明らかにし、気候に対する鋭敏性を上げるため、気候復元の際にマイナー分類群を強調することで、気温復元の精度・確度をともに有意に向上させることに成功した。 3. コア表層部の珪藻分析を行い、得られたデータを用いて統計解析を行った。その結果、大阪湾における珪藻遺骸群集の組成は、有機物量や塩分量、湾内における場所の特性に影響を受けていることがわかった。 4. 得られた堆積物コアは、どれもPb210・Cs137法を用いた年代決定には長さが不十分であった。しかし、表層堆積物から得られた過剰Pb210測定値から、湾奥側(停滞水域)と湾口側(強い潮流域)では、異なる堆積プロセスが働いていることが明瞭に示された。この結果は、花粉データ解析の結果とも整合的である。
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