研究課題
太陽フレアとは、太陽表面で発生する爆発的な増光現象のことであり、電波からガンマ線のすべての波長で電磁波強度が急激に増加する。その継続時間は、波長に依存するものの概ね数10分程度であることが知られていた。一方、フェルミガンマ線望遠鏡は、太陽からのガンマ線放射が数時間も継続するイベントを検出しており、放射が長時間持続するメカニズムや、MeV/GeVガンマ線を放射しうるような粒子加速メカニズムを明らかにすることを目的として本研究を行った。本年度は、この太陽フレアに付随する長時間MeV/GeVガンマ線放射について、これまでに観測されているすべてのイベントのフェルミデータの解析を行った。ガンマ線スペクトルは数100 MeVのエネルギー領域でバンプ構造を示しており、パイオン崩壊起源のガンマ線であることを明らかにした。パイオンは、加速された高エネルギー陽子と太陽大気との相互作用によって生成されるため、電子ではなく陽子がGeV程度の高エネルギーにまで加速されていることを示す。また、LAT検出器の優れた角度分解能を生かして、ガンマ線の放射位置は活動領域近傍に存在することを見出した。これは、活動領域の乱流によって、粒子がGeV領域まで加速されていることを示唆する。一方、MeV/GeVガンマ線放射が観測された太陽フレアの多くに、高速の質量放出 (Coronal mass ejection)が付随していることを見出した。これは、質量放出の前面にできる衝撃波によって、粒子が加速されている可能性を示すものである。それゆえ、加速メカニズムとしては、これら2つのメカニズムに絞る事ができたと言える。
2: おおむね順調に進展している
計画段階では、2012年度中にフェルミ衛星のデータ解析を終了し、ガンマ線放射機構や太陽面上におけるガンマ線放射位置、ガンマ線を放射し得る高エネルギー粒子の加速メカニズムを明らかにすることを目標としていた。これらのテーマのうち、ガンマ線放射機構と位置については、上に述べたように解明することができた。また粒子加速メカニズムについては、これまで全くの未解明であったが、乱流加速と質量放出(CME)前面にできる衝撃波による加速の2つに絞ることができた。これらの結果は、研究代表者が、corresponding authorとしてフェルミチームをリードし、データ解析と結果の理論的解釈を迅速に行った結果である。また、それらをまとめた論文を3月末にAstrophysical Journalに投稿することができた。このように、当初の予定通り研究が進んでいる。
2年目となる2013年度は、2つに絞られた加速機構のうちどちらが実際に作用しているかを決定することを目指す。そのため、研究計画でも述べたように、惑星間空間において計測されているプラズマデータや多波長電磁波データとの比較を行う。後者については、主に電波領域のデータを解析することを予定している。惑星間空間では、プラズマ計測器により高エネルギー陽子フラックスが常時計測されている。それらと、ガンマ線スペクトルから推定される陽子スペクトルを比較し、その概形やフラックスが一致するかを調べる。また、電波観測では加速された電子についての情報が得られるため、電子陽子数比を見積もることが可能になる。このようなパラメータをサーベイすることによって、加速機構を決定することを目指す。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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