1)顕微ラマン分光法による氷床表層試料分析方法の改良 雪試料をそのまま分析にかけると、その複雑な表面形態のために光の乱反射が生じて、分析ターゲットである氷に介在している数ミクロンの微小不純物粒子に対して適切にレーザー照射、ラマン散乱集光することができない。当初は、雪試料を圧縮・氷化させることで乱反射を軽減し、測定を進めていたが、氷の変形によって試料内部に微小ボイドが大量発生し、観察を困難にするという新たな問題が生じた。そこで研究代表者は、雪試料を氷と屈折率が近い透明液体(フロリナート)に浸して観察する方法を開発した。液浸法で得られる雪試料内部の光学イメージは良好であり、またフロリナートのラマン散乱波長がターゲットとしている不純物のそれと重ならないために、ラマン分析も問題なく行える。 2)南極積雪の顕微鏡観察およびラマン分光分析 液浸法による南極積雪中介在物の顕微鏡観察およびラマン分光分析を行い、以下の結果を得た。①南極表面積雪の氷粒内には、ミクロンオーダーのサイズを持つ微粒子がほとんど見当たらない。②表面積雪に含まれる微粒子からラマンシグナルは検出されず(おそらく組成は塩化物)。③その一方で、氷化深度付近のドームふじフィルン内部では、無数のスーパーミクロン粒子が観察される。④ドームふじフィルンに含まれる微粒子の組成は、主に硫酸塩(Na2SO4・10H2O、CaSO4・2H2O等)。今後の課題は、氷床表面から氷化深度までの間に、水溶性塩微粒子が成長・粗大化するプロセスを明らかにすることである。
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