研究課題/領域番号 |
24840046
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
森田 健 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 博士研究員 (40456752)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 素粒子論 / ゲージ理論 / 超弦理論 / 非平衡物理 |
研究概要 |
私は非可換ゲージ理論の有限温度の研究を行った。非可換ゲージ理論は一般に低温で閉じ込め相、高温で非閉じ込め相という二つの相が安定に存在していることが知られている。しかし我々は高温では、非閉じ込め相だけでなく一般に無数の不安定相が存在することを解明した。これらの不安定相は熱力学的に不安定なために通常はそれほど重要な役割を果たさない。しかし、系を低温から徐々に熱していった場合に、閉じ込め相から非閉じ込め相へと相転移が起こると考えられるが、この相転移過程の中間状態として、これらの不安定状態が出現する可能性が示唆された。このような閉じ込め相から非閉じ込め相への相転移は、重イオン加速器実験などで現実に実験することが可能なので、これらの相が実験として観測される可能性もある。 しかし、このような時間発展に伴うゲージ理論の相転移現象は解析的な扱いが難しくほとんど解明されていないのが現状である。そこで簡単な解析が可能な低次元のゲージ理論を、高次元のゲージ理論のtoy模型として時間発展問題の研究をおこなった。そしてゲージ理論が閉じ込め相においてカオス的な振る舞いを起こすことを数値的に発見した。 このようなゲージ理論は超弦理論においてDブレーンの有効理論として出現することが知られており、今回の結果はDブレーンがある温度領域においてカオス的に振る舞うことを示唆している。さらに最近ゲージ重力対応の研究で、重力理論からもDブレーンのカオス的な振る舞いが予言されており、我々の結果はこの予言と定性的に一致するものである。 これらのカオス的なゲージ理論や超弦理論の振る舞いはこれらの研究により始まったばかりで今後大きな発展をする可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論物理においては計画通りに研究を進めることは非常に難しい。本研究においても当初行おうと考えていた超対称性ゲージ理論における新しい相に関する研究はそれほど進展がなかった。これは当初考えていた近似法における解析に問題が見付かったためである。 その一方でゲージ理論の時間発展問題においては予想以上に進展があった。特にtoy模型として考えた低次元のゲージ理論において熱平衡化過程やエントロピー生成、時間発展に伴う相転移現象やその相転移における臨界点の重要性などかなり理解が進んだ。特に相転移に伴う特異性がどのように量子論的に解消されるのかなど興味深い進展が多かった。 またゲージ理論が低温で閉じ込め相にある場合に、カオス的な振る舞いを見せることが数値的に示唆された。 これらのゲージ理論の時間発展に伴う性質は、解析の困難さからこれまでほとんど理解されることがなかった。そういった解析の難しい分野でこのような著しい発展が得られたのは大きな収穫で有り、今後大きく発展して区可能性がある。 そのため当初予定していた超対称性ゲージ理論の進展がそれほど順調でなかったことを差し引いても全体としては研究が順調に進んでいると考えることが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
大きく分けて2つの方向へ研究を進めていくことを計画している。 一つ目はゲージ理論における時間発展問題の解明をさらに進めていくことである。この問題は前回の研究により大きな進展が得られた。特にゲージ理論のカオス的な振る舞いは超弦理論でもDブレーンにおいて観測することができると期待される。さらにゲージ重力対応を用いれば重力理論でもカオス的な振る舞いを起こすことが期待出来る。そこでゲージ理論の解析をさらに進め、きちんとカオス的な時間発展の分類や出現条件などを研究していく。これらのカオス的な振る舞いは、おそらく系が非閉じ込め相やブラックホールへと相転移していく過程で重要になっていくと考えられる。これによりブラックホールエントロピーの起源など量子重力の非摂動的な効果の解明につながる可能性がある。 もう一つの研究の方向として超対称性ゲージ理論の解析がある。前回の研究目標の一つに超対称性ゲージ理論の新しい熱力学的状態を調べるというものがあったが、達成出来なかった。しかし最近になって低温における超対称性ゲージ理論の新しい解析方法が発見されたのでそれを用いて解析を試みる。さらにこのような超対称性ゲージ理論は重力理論と密接に関連があるので、重力理論においても対応する新しい状態が存在するはずであり、これを探っていく。またこの低温での新しい解析方法を用いるとこれまで解析出来なかったブラックホールの振る舞いを直接的にゲージ理論で調べることが可能だと考えられる。そのため今までブラックホールで理解されていなかった普遍的な粘性や、異常に早い熱平衡化過程などの特殊な振る舞いが、どのようにゲージ理論で実現されているのか解明出来る可能性がある。特にこれらの性質は重イオン加速器実験を通してQCDにおいても示唆されているので、その起源が解明出来れば超弦理論だけでなく、現実の物理としても重要な進展となる。
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