研究課題/領域番号 |
24850002
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野 巧 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教育研究支援者 (20637243)
|
研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
キーワード | コンプトン散乱 / 高温高圧アルコール水溶液 / 分子シミュレーション / 水素結合 |
研究概要 |
アルコール水溶液の溶液構造の理解は、工学・理学的に重要である。アルコール水溶液の水素結合は組成の変化により大きく変化し、また溶液構造に大きな影響を与えるため、その解明に向けて多くの試みがなされてきた。しかし、電子状態に基づいて厳密に水素結合を検討することは困難であり、共有結合や静電相互作用との本質的な差異の有無、また水素結合が溶液構造に与える影響、およびこれに起因したバルク物性の変化など、水素結合の本質に関しては明らかではない。 本研究では電子状態を直接測定する手法であるコンプトン散乱法に着目し、測定および理論計算によりアルコール水溶液の水素結合状態および溶液構造の溶液構造の評価を行った。測定条件を水の臨界点近傍を含む高温高圧下まで考慮することで、温度圧力効果を含めた検討を目的としている。本課題の採択前に行った実験により、X線源にSPring-8のビームライン(BL08W)、測定セルにSUS製のチューブを用いることで、350℃-20MPa におけるメタノール水溶液のコンプトン散乱のスペクトルが測定できることを確認した。しかし、このとき得られるスペクトルは高温高圧流体の測定であるためS/N比が小さく、また多重散乱の影響も大きいという問題があった。そこで、これらの問題を解決するセルの開発を行い、多重散乱の影響を考慮した高精度な測定手法の確立に取り組んだ。さらに、確立した手法を用いて、350℃-20MPaにおけるメタノール水溶液のコンプトン散乱スペクトルの組成依存性に関するデータの蓄積を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線の出入口にベリリウム製の窓を用い、さらに多重散乱光の影響を抑える形状をしたセルを開発した。このセルを用いて、350℃-20MPaにおけるメタノール水溶液のコンプトン散乱実験を行った。新規に開発したセルを用いることにより、ステンレスに起因した多重散乱を大幅に減少させることができ、またS/N比の大幅な向上を確認した。多重散乱の減少により、当初予定していたモンテカルロ計算による多重散乱の考慮を行わなくても十分な精度で測定できる可能性が示唆された。また、S/N比の向上により、測定時間を既往のセルを用いた場合に比べて約1/3まで短縮することが出来た。 得られたコンプトン散乱のスペクトルは、メタノール組成の増加によって低組成領域で挙動が大きく変化する傾向が確認できた。これは体積挙動をはじめとする他物性でも確認されている傾向であり、今後実施を予定している理論計算との組み合わせにより、ミクロ物性とマクロ物性の関連性を解明できる可能性が示唆された。 上述の結果は、本課題の申請時に予定した実験結果より得られたものであり、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
量子化学計算により原子座標配置に対応したコンプトン散乱のスペクトルが求められることから、原子座標を仮想的に摂動させながらこのスペクトルを算出し、実測値との比較を行う。さらに分子シミュレーションから一部領域内の分子を抽出し、その座標情報からコンプトン散乱のスペクトルを求めて実測値との比較を行うことで、分子内および分子間の構造を解析する。コンプトン散乱のスペクトルは、分子内よりも分子間の位置関係を強く反映するという特徴を持つため、測定する温度圧力範囲を変化させることにより、メタノール水溶液の溶液構造、分子間距離を大きく変化させ、特に低い密度領域で組成を変化させることで、分子内構造の微小な変化を抽出して検討する。 アルコール水溶液の理解を一般化するため、対象をエタノール水溶液まで拡張し、メタノール水溶液と同様の条件でコンプトン散乱実験と理論計算による解析を行う。これより温度、圧力、組成の他にアルコール種、つまりアルキル基が変化したときの水素結合状態および溶液構造の変化に伴うコンプトン散乱のスペクトルの挙動を確認する。
|