研究課題
1年目である本年度は、研究実施計画に従い、まず2種類のセレン原子導入型新規カテコール縮環テトラチアフルバレン電子ドナー誘導体(Cat-TSF, Cat-TS)を合成した。合成したドナーは、母体Cat-TTFよりもわずかに低いがほぼ同程度の電子ドナー性を有していた。それらを基盤とした単一ユニットからなる純有機電気伝導体の作成・電解結晶化を検討したところ、興味深いことに、カテコール部が酸化されたキノン縮環体が得られた。この分子は、分子内に電子ドナー部、アクセプター部を持っており、分子内電荷移動に起因する長波長吸収を示した。このようなTSFまたはTS骨格を有する電子ドナー・アクセプター連結体は大変珍しい。現在、異なる条件での電解結晶化により、水素結合で連結された単一ユニット電気伝導体の作成を検討している。また、今回合成した電子ドナー分子の母体であるCat-TTFドナー分子を用いて、水素結合型の新規な電気伝導体の作成も行った。合成した2種類の電気伝導体は、ドナー:アニオン=2:1の組成からなっており、ドナーのカテコール部の水酸基とカウンターアニオンの間に水素結合が形成されていた。今後伝導度測定を行い、構造と物性の相関を調べる予定である。
2: おおむね順調に進展している
設計した2種類の新規電子ドナー分子を予定通り合成することができた。これらを用いて様々な条件での有機伝導体の作成を試みたところ、当初予想していた水素結合型ユニットからなる純有機電気伝導体は現在のところ得られていないが、大変珍しいタイプの新規ドナーアクセプター連結分子が得られ、その構造・性質を明らかにすることができた。さらに母体Cat-TTFを基盤とした水素結合型の新規な電気伝導体の作成に成功した。有機伝導体の構造や物性に対する水素結合の効果を調べる上でのモデル系として興味深い。
今年度得た知見を活かし、当初申請書に記載したように、水素結合官能基を有する新規電子ドナー分子の合成を基盤として、単一成分からなる純有機電気伝導体の開発を行う。ごく最近、母体Cat-TTFを基盤とした単一成分純有機伝導体の水素結合部のプロトンを重水素置換することで、その電子構造、各種物性が大きく変化することを見出しつつある。このような重水素化アプローチによって水素結合の構造・様式を変化・制御することで、有機伝導体結晶全体の構造や物性を制御・変調させることも本研究を推進させるうえで興味深いと考えている。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
Nature Commun
巻: 4 ページ: 1344
10.1038/ncomms2352
Chem. Commun
巻: 48 ページ: 8673–8675
10.1039/c2cc34296k
Tetrahedron Lett
巻: 53 ページ: 4385–4388
10.1016/j.tetlet.2012.06020
Crystals
巻: 2 ページ: 1502-1513
10.3390/cryst2041502
http://www.researcherid.com/rid/A-2624-2012
http://hmori.issp.u-tokyo.ac.jp/member/member-ueda.htm