最終年度である2年目は、研究計画通り、テトラチアフルバレンを基盤とした新規水素結合型電子ドナー分子の合成研究からスタートした。フタル酸縮環体(分子1)については、前駆体の合成に成功し、最終目的物の合成を試みたが、溶解度が予想以上に低く精製がやや困難で単離には至っていない。 この合成研究と並行して、既に合成済みの単一の水素結合ユニットからなる純有機伝導体H3(Cat-TTF)2およびH3(Cat-STF)2の電子状態や電気伝導性の変調を目的として、これらのユニット内水素結合プロトンを重水素化した純有機伝導体D3(Cat-TTF)2およびD3(Cat-STF)2を新たに作成した。X線構造解析から、これらの重水素化体は室温でいずれも母体の水素体と同形構造を有している、すなわち単一ユニット型純有機伝導体であることが確認できた。興味深いことに、これらの単結晶の室温電気伝導度は、母体に比べわずかではあるが向上しており、また、活性化エネルギーは母体よりも低い値であることが分かった。従って、重水素置換というシンプルな方法で、良伝導性を示すこの単一ユニット型純有機伝導体の電気伝導性をさらに向上させることができた。
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