研究課題/領域番号 |
24850007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒田 義之 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (50638640)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 金属複酸化物 / 低温合成法 / 電極材料 / 無機工業化学 |
研究概要 |
有機溶媒中で金属種の酸化還元、水和反応を精密に制御することで、金属複酸化物の低温合成法の確立を目指した。平成24年度は有機溶媒中でのリチウム-マンガンスピネル(Li-Mn-O)の合成条件を検討した。 適切な有機溶媒を溶媒兼還元剤として用い、Li塩と微量の水の存在下でMn塩を還元すると、50℃という低温で、極めて粒径の小さなLi-Mn-Oナノ粒子(粒径3-4 nm)が得られた。このLi-Mn-Oナノ粒子の表面積は約260 m2/gであり、既報における最大の表面積を有していた。 Mn塩は酸化還元によりアモルファスMnO2を生成することが良く知られている。そこで、アモルファスMnO2を前駆体として用い、同様の反応によるLi-Mn-Oの形成条件を詳細に調べた。この場合もLi-Mn-Oナノ粒子が生成したことから、本反応系はMnO2の結晶化及びLi+の取り込みに有効であることが明らかとなった。さらに、この反応では水の添加量により水和反応を制御することが重要だった。水を全く用いないとMnO2が結晶化せず、水を一定以上加えるとLi-birnessiteを生成した。水によりMn-O結合が加水分解することで結晶化が促進されたと考えられる。以上より、Mn塩の還元によるアモルファスMnO2の生成と、その還元による結晶化及びLi+の取り込みにより、Li-Mn-Oが生成したことが示唆された。有機溶媒中で還元反応と水和反応の両方を制御することが、Li-Mn-Oの生成に重要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は、アモルファスMnO2を合成し、これとLi塩との反応によりリチウム-マンガンスピネル(Li-Mn-O)を合成する2段階の合成法を計画していた。この合成法の開発は順調に達成した。加えて、この2段階の反応を1段階で行うことで、合成温度を従来法(70℃)よりも低温である50℃にまで低下させることができた。さらに、生成物は3-4 nmの極めて小さなナノ粒子であり、Li-Mn-Oにおける最も高い比表面積を更新する結果を得た。従って、当該年度の研究は当初の計画以上に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に、適切なMn塩をLi塩存在下、有機溶媒中で還元することで、極めて粒径の小さなLi-Mn-Oスピネルを合成できることを明らかにした。平成25年度はこのスピネルの物性評価を行いつつ、本反応系のMn以外の金属への展開を検討する。これらの結果をそれぞれ取りまとめ、論文及び学会にて報告する。 Li-Mn-Oスピネルナノ粒子の電気化学的物性を調べ、リチウムイオン電池の正極材料の有用性を評価する。ナノ粒子化により充放電レート特性の著しい向上が期待できるため、これを重点的に調査する。 有機溶媒中での酸化還元反応の制御、水和反応の抑制をコンセプトとし、Co, Fe, Ni等の遷移金属を用いた複酸化物の合成を検討する。これらの遷移金属種はスピネル型複酸化物の代表的な構成元素であり、さらには層状岩塩型構造等の異なる結晶構造を形成する可能性もある。期待されるスピネル型複酸化物や層状岩塩型複酸化物は磁性体、導電体、触媒、電極材料等として有用である。さらに、CoやNiといった元素では酸化反応による構造制御の有効性も検討する
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