有機溶媒中での金属種の酸化還元反応、水和反応の精密制御に基づく、金属複酸化物の低温合成法を開発した。平成24年度は、有機溶媒中でLi+をテンプレートとし、MnO4-を還元することで、Li-Mnスピネル構造(3D構造)の極めて小さなナノ粒子を合成できることを見出した。さらに、系中の水分量を制御することで層状構造(2D構造)との作り分けを実現した。平成25年度はこの成果を受け、多様な金属種を用いた複酸化物構造の合成を行った。 Li+に代え、Mg2+、Co2+、Ni2+、Zn2+等をテンプレートとして用いた。水分量の精密制御により、トンネル構造(1D構造)、スピネル構造(3D構造)の作り分けが可能であることを明らかにした。いずれの金属種を用いた場合でも、溶媒の沸点程度の低温で、極めて小さいナノ粒子の合成が達成され、本手法の低温合成法としての有用性が示された。これらの金属複酸化物の一部は、有機物の酸化反応に高い活性を有することも明らかにした。 生成物の相の違いは、水分量によりテンプレートの水和状態が変化するという仮説により説明可能であった。水分量が多い条件では、テンプレートは水和イオンとしての状態を保ちつつ、複酸化物の構造形成に利用されると考えられる。このため、トンネル構造や層状構造といった、比較的広い空間を有する構造を形成したと考えられる。一方、空間の狭いスピネル構造を形成するためには、有機溶媒中でテンプレートを十分に脱水する必要があった。本手法は金属複酸化物の結晶構造を制御するための、汎用的な手法として利用できることが示唆された。 以上より、有機溶媒中での金属種の酸化反応、水和反応の制御は、(1)複酸化物の低温合成、(2)極めて小さいナノ粒子の合成、(3)結晶構造の制御の点で優れた方法であることが明らかとなった。
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