研究課題
本研究では、ゲスト分子認識能を有する巨大環状オリゴピロールに、光によって結合様式が可逆的に変化するアゾベンゼンを導入する事で、光照射に伴う環構造のねじれの開閉と同期した革新的な分子認識システムの創成を目的としている。平成24年度では、本分子認識システムを構築する上で根幹となる、環状オクタピロールにアゾベンゼンユニットを組み込んだ新規なフォトクロミックマクロサイクルの合成に挑んだ。多段階反応を経て、ビピロール部位と末端にピロール部位を有するアゾベンゼン誘導体を別々に合成した後、塩化メチレン中で混合し、DDQで酸化することにより、新奇マクロサイクルを得た。この分子を種々の有機溶媒に溶解し、350 nmの光を照射したが、アゾベンゼン部位の光異性化は全く進行しなかった。これは、アゾベンゼン部位を光励起しても、異性化が進行することなく、アクセプター分子であるピロール骨格へとエネルギー移動が生じるためであると考えられた。そこで、エネルギー移動を抑制し、より効率的な光異性化を目指すため、アゾベンゼン部位とピロール部位の間にエチレンスペーサーを導入した新奇マクロサイクルを新たにデザインした。同様な多段階反応を経て、新奇マクロサイクルの合成を行った。得られたマクロサイクルの粗生成物に対し、350 nmの光を照射し、行い、予備的に光異性化反応実験を行うと、34%トランス体からシス体への光異性化が進行することが明らかとなり、エチレンスペーサーを導入していないマクロサイクルに比べ、異性化率の大幅な向上が見られた。
2: おおむね順調に進展している
光異性化部位を組み込んだ大環状オリゴピロールを合成し、光照射によりナノメートルスケールの構造変化を誘起させる新奇ホスト分子を創成する事が本研究の第一段階であるが、平成24年度の研究により、アゾベンゼンユニットとオリゴピロール骨格を連結した種々のマクロサイクルを合成できる見通しを得た。最初に設計し合成した、ピロール骨格とアゾベンゼンが直結したタイプのマクロサイクルでは、アゾベンゼン部位の光異性化が全く進行しなかったが、エチレンスペーサーを導入することで、異性化率が大幅に向上する事を見出した。また、アゾベンゼンとピロール部位を連結する置換基の位置をパラ位からメタ位にすることでも異性化率が向上する事も見出している。このように、種々のマクロサイクルを系統的に合成する事に成功し、分子構造と異性化率の相関についても大まかな知見を得る事が出来た。従って、本研究の基盤はほぼ確定し、今後、さらにより効率的に光異性化する分子を戦略的に設計、合成する事が可能になると考えられる。
これまでの研究により、アゾベンゼンユニットを含んだ大環状オリゴピロール誘導体の合成法をほぼ確立し、その分子骨格と光異性化率との相関について知見を得ることが出来た。今後は、光異性化の前後でマクロサイクルのコンフォメーション変化の詳細を、各種スペクトル測定およびX線結晶構造解析などにより明らかにしていく。また、本研究の最大の目的である、光照射による構造変化に伴う分子認識能の変化についても詳細に検討を行い、新奇マクロサイクルの光応答性ホスト分子、機能性材料としての可能性を探索していく予定である。特に、本研究でデザインした大環状分子は骨格にピロールを導入しているため、金属イオンや水素ドナー部位を有するカルボン酸類や糖類、アミノ酸などをゲスト分子として取り込む事が期待されるため、これらの分子との親和性を検討する。さらには、二つのテトラピロール部位の八つの窒素原子により、ランタノイドなどの高配位型金属イオンを取り込める可能性も考えられる。おそらくシス体とトランス体では分子内の二つのテトラピロール骨格の相対的配置が異なり、ランタノイドイオンとの親和性も大きく変化すると考えられるため、これを利用した磁気特性、発光特性を光スイッチングできる分子素子の開発などにも取り組んでいく。
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