色素増感太陽電池は、製造コストに優れることから次世代太陽電池として期待されている。しかしながら、現状の光電変換効率は期待される値の1/3程度しか達成されておらず、さらなる高効率化が望まれている。色素増感太陽電池の発電プロセスは増感色素が太陽光により励起され分子内で電荷分離状態を作り電極材料に電子を注入することから始まる。本研究では、これまで検討されてこなかった電荷分離構造と電極材料への電子注入の効率を向上させる増感色素による光電変換効率向上の検討を行い増感色素の新しい設計指針を見出すことを目的としている。 本研究では、以下に述べる2つのアプローチによって光電変換効率向上のための増感色素の設計指針を見出す計画である。(1)増感色素中に電荷分離構造を導入し増感色素の物性と光電効率変換効率の評価。(2)酸化チタンへのリンカーとしてトロポロンリンカーの特性評価。 本年度は、昨年度に続き、上記(1)及び(2)の要件をもとに量子化学計算によって設計された材料の合成を行った。また本年度は、合成した増感色素材料を用いた太陽電池を作成しその特性評価を行った。検討結果の中で、一般的な増感色素で標準的に用いられるカルボキシル基をリンカーに持つ安息香酸誘導体に対し、その構造異性体であるトロポロンリンカーを用いた増感色素では、短絡電流密度が著しく向上し、その結果、エネルギー変換効率は7倍に向上する結果が得られた。また、比較化合物として合成したサリチルアルデヒドリンカーでも安息香酸誘導体に対して短絡電流密度が上昇しエネルギー変換効率も2から3倍に向上する結果が得られた。 これらの結果から、色素増感太陽電池の高効率化のための増感色素の設計指針を得ることができた。
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