研究課題/領域番号 |
24850017
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
三浦 大樹 青山学院大学, 理工学部, 助手 (20633267)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | イリジウム / カチオン性錯体 / 単純アルケン / 1,3-ジケトン / 付加反応 |
研究概要 |
官能基の直接的な結合により活性化されていない単純アルケンへの炭素-水素結合の付加反応による触媒的炭素-炭素結合形成反応は高難度分子変換反応の一つとして挙げられ、それらに有効な触媒系の開発は特に重要である。なかでも中性条件下での遷移金属触媒を用いる活性メチレン化合物のC-H結合の単純アルケンへの付加反応が近年精力的に研究されている。これまでに分子間反応としてはPdまたはAu触媒を用いた例が報告されているが、アレン、共役エンイン、スチレン誘導体への付加反応に限られていた。一方、官能基の置換していないアルケンへの付加反応は、固体酸触媒を用いた例が報告されているが、反応温度や収率などに改善すべき問題点が残されていた。本年度の検討の結果、カチオン性イリジウム触媒を用いることで、1,3-ジケトンの単純末端アルケンへの位置選択的付加反応が進行しマルコフニコフ型生成物が得られることを見出した。種々のイリジウム錯体を用いて、1-オクテンとアセチルアセトンとの反応を検討した結果、ヘキサフルオロアンチモネートを対アニオンに持つカチオン性のイリジウム錯体を用いた場合に反応は最も効率よく進行し、高収率で対応する生成物が得られた。一方、中性のイリジウム錯体を用いた場合、反応は全く進行しなかった。アセチルアセトンと様々な単純末端アルケンとの反応を行った結果、対応する生成物がそれぞれ高収率で得られた。さらにハロゲンを有するアルケンとの反応も良好に進行し、対応する生成物がそれぞれ良好な収率で得られた。末端にハロゲンを有するアルケンとの反応では、ハロゲン化アルキルにより活性メチレンがアルキル化された生成物は全く得られず、二重結合への付加反応のみが選択的に進行した。さらに本触媒系は様々な1,3-ジケトンとの反応にも有効であり、対応する生成物がそれぞれ高収率で得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は活性メチレン化合物のC-H結合の官能基が置換していない単純アルケンへの付加反応という、難易度の高い課題に取り組んだ。活性メチレン化合物の電子吸引基の置換したアルケンへの付加反応は、塩基存在下で容易に進行することが知られており、マイケル付加として広く有機合成に用いられている。一方、単純アルケンは官能基等で活性化されていないため、反応性に乏しいとされてきた。そこで、本反応に有効な触媒系の開発を目的とし検討を行った。その結果、イリジウム錯体触媒存在下において反応が効率的に進行し、対応する生成物が高収率で得られることを見出した。さらに種々のイリジウム触媒を検討した結果、イリジウムはカチオン性であることが必須であり、さらにカウンターアニオンがSbF6-を用いた場合に反応が最も効率よく進行することを明らかにした。これまでに同族元素であるカチオン性ロジウム触媒の多様な触媒反応への適用例が報告されているが、カチオン性イリジウム触媒の分子変換反応への適応例はまだ限られた例しか存在しない。これらの結果により今後のカチオン性イリジウム触媒を用いる新規合成反応への展開が期待できる。また本反応に対する基質適応範囲を検討した結果、カチオン性イリジウム触媒存在下において、多様なアルケンが適用可能であることも明らかにした。特にハロゲンがアルキル鎖の末端に置換したアルケンを用いた場合、ハロゲン置換炭素での求核置換反応は全く起こらず、活性メチレンC-H結合のアルケンへの付加反応が選択的に進行した。このようにカチオン性イリジウム触媒がこれまでに見られなかった優れた官能基選択性を有する触媒系であることも明らかにした。一方、活性メチレン化合物の基質適応範囲が限定されるという結果も本年度の検討によって明らかとなっており、これらの打開は今後の課題であるが、上述のように研究は概ね順調に推移していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、1,3-ジケトン化合物の単純末端アルケン類への付加反応について収率および選択率の向上を狙い、より最適な反応条件および触媒探索など詳細な検討を進めた結果、カウンターアニオンとしてSbF6-を有するカチオン性イリジウム触媒が最も高い触媒活性を示すことを明らかにした。本反応は90度以下といった温和な条件下で良好に進行し、これまでの固体触媒を用いた反応系と比較し、大幅に反応条件を緩和させることに成功している。そこで今後は、より温和な条件下で高い触媒活性を示す触媒系の構築や、非対称な活性メチレン化合物を用いたジアステレオ選択的付加反応にも展開することを目標とする。また活性メチレン化合物としてジケトン以外にケトエステル、ジエステル、ジニトリル、ジニトロ化合物などを用いた反応も検討する。さらに、本触媒反応の反応機構の検討も行う予定である。一方、環状ジケトン類などを基質として用いた場合に、収率が大きく低下するなどの問題点があきらかになっている。そのため、最適反応条件の更なる探索やこれらの問題点を克服できる新しい触媒系の開発を念頭に検討する予定である。 また、カチオン性イリジウム錯体の触媒機能についてはこれまでに系統的な検討はなされておらず、その特異的な触媒性能は非常に興味深い。アルデヒドの炭素-炭素不飽和結合への付加反応(ヒドロアシル化反応)は有機合成において非常に重要な反応であり、種々の触媒系が報告されている。しかし、これまでの触媒系には基質適応範囲に大きな問題点が残されている。また、本反応に有効なイリジウム触媒系はほとんど報告されていない。そこで、単純アルケンや単純アルキンに対するヒドロアシル化反応に有効な新規イリジウム触媒系、主として電子不足な金属中心を有するカチオン性イリジウム触媒を中心として探索を行う。特に広範な基質適応範囲を有する触媒系の開発を目標とする。
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