近年におけるハードディスクドライブ (HDD) の記録密度の伸び悩みの一因として,従来型記録ヘッドの物理的限界が挙げられる.超高密度HDD対応の磁気記録媒体では,熱擾乱耐性向上のために反転磁界Hswが高められた強磁性ナノ結晶粒がディスク全面に整然と並べられている.一方,従来型記録ヘッドではコイルへの電流量や寸法の制限により,印加磁界がHswを超えられない問題が生じている.上記問題を打破するには,マイクロ波アシスト記録方式に代表されるエネルギーアシストが有効である.この方式ではマイクロ波発振素子から数GHzの交流磁界を媒体に印加し,媒体中の磁気モーメントを歳差運動させHsw低減を図る.本研究の目的は,マイクロ波アシストヘッド用の材料開発にある.具体的には,マイクロ波発振素子として期待できる,巨大な負の一軸結晶磁気異方性エネルギー (Ku) を有するCoIr合金薄膜の作製および同薄膜の酸化物添加によるコラム化,ならびにその高周波特性の明確化を目指す.平成24年度は,CoIr合金薄膜の負のKuを増大させる指針の確立のために原子積層構造の解析を行った.その結果,1) 室温製膜にて作製したKu の低い (約-5.0×10の6乗 erg/cc) 試料では,CoおよびIr原子が不規則相かつ積層欠陥を含んだ最密六方原子 (hcp) 積層となっていた.2) これに対し,加熱製膜にて作製した巨大な負のKu (約-1.0×10の7乗 erg/cc) を発現した試料は,CoおよびIrのみの層が無秩序に積層した”原子層変調構造”をとり,かつほぼ完全にhcp積層していることを確認した.この結果から,CoIr合金薄膜のCo層とIr層とを均等に原子層変調させ,かつ完全なhcp構造とすることにより,更なる巨大な負のKuを実現できる目処が立った.
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