研究概要 |
GHz帯の特定の周波数において最大となる磁性膜の強磁性共鳴損失およびジュール損失を用いて,LSIチップ上への電源供給回路(Power Distribution Network, PDN)のインピーダンスを周波数軸で制御し,電源品質(Power Integrity, PI)を確保することを目的として研究課題を遂行した. まず,模擬配線上に配置した磁性膜による配線インピーダンス変化を定量化するため,磁性膜の外部空間も含めた磁気回路を構築し,磁性膜内で生じる反磁界を考慮した強磁性共鳴損失およびその磁性膜を集積した配線のインピーダンスの変化量の周波数特性を予測した.さらに,実証実験として,磁性膜としてCoZrNb膜を配置した配線を測定し,磁気回路を用いた予測の妥当性を示した. 以上の結果,磁性膜を用いた配線のインピーダンス制御のために必要なパラメータの抽出を行った.磁性膜の物性値として膜固有の比透磁率,設計値として膜寸法および電源配線の位置関係が明らかになれば,強磁性共鳴損失の周波数特性が予測可能であることを示した.この成果は,本研究で目的としている電源配線のインピーダンス制御のための設計指針の提示に留まらず,磁性体の強磁性共鳴を応用する全てのデバイス設計に有用な重要な知見である. 試作したICチップを試作ボードへ実装し,特に,移動通信端末の通信周波数帯域である2 GHz帯に注目し,ボードレベルで配線のインピーダンス制御の効果を評価した.ここでは,磁性膜としてCoZrNb膜,シート抵抗をCoZrNb膜と同様とした非磁性導体膜としてCu膜を製膜し,電源配線上での近傍磁界計測を用いて誘導ノイズを測定した.その結果,磁性膜を配置したチップの誘導ノイズが最もノイズが抑制されていることが明らかとなった. 以上により,チップ内配線上に集積化した磁性膜によるインピーダンス制御の有用性を実証した.
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