研究課題/領域番号 |
24860010
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古川 幸 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30636428)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 免震 / 鉛直応答 / 機能保持 / 常時微動計測 |
研究概要 |
高度な機能保持性能が求められる免震建物の鉛直応答性状の把握は、直下型地震の発生が迫っている日本においては危急に取り組むべき研究課題の一つであるが、世界的に見ても実測データが少なく、良く理解されていないのが現状である。そこで、初年度である平成24年度は、免震建物の鉛直応答性状の包括的な傾向を把握する目的で下記の3つに取り組んだ。また、次年度実施予定の「縮約免震試験体を用いた鉛直応答動特性の把握」の実験準備や、「東北大学工学研究科3棟の新築免震建物の鉛直応答動特性の計測」に向けた設計資料収集や常時微動計測機を借り受ける手はずを整えた。 (a) 3質点モデルを用いた検討 :免震建物で鉛直応答増幅に寄与する、「免震層」「柱」「床」応答をそれぞれ1質点に縮約した3質点モデルを用いて、固有周波数や質量分布を変数とした場合の鉛直加速度応答倍率の変遷を明らかにした。特に、低層建物において免震層の固有周波数と床の固有周波数が近くなる場合において、鉛直床加速度応答倍率が大きくなる傾向があることを明らかにした。 (b) 床単体に注目した、床条件と鉛直応答動特性の関係の把握:建物の鉛直応答の傾向把握を困難にしているのが、非常に複雑なモードをもつ床の存在である。ここでは、基礎的な研究として柱が周上にある場合に限定し、鉛直加速度応答倍率が大きくなる条件を明らかにした。 (c) 実大免震建物の振動台実験結果の検討:E-ディフェンス(防災科学技術研究所)で行われた4層鉄筋コンクリート構造と、5層鋼構造の上部構造をもつ免震建物の実大振動実験結果を用いて、建物条件が異なる2つの免震建物について鉛直床加速度応答特性を考察した。その結果、建物条件により免震層の有無が建物の鉛直加速度応答特性を顕著に変える場合と、変えない場合があることが分かった。この要因抽出については、平成25年度の継続研究課題とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、初年度に計画した研究を実施するとともに、2年目に実施予定の実験準備を着実に進めている。しかし有益な成果を上げるために計画に一部変更を加えた。それは、当初計画では解析的検討を行う3Dモデルとして一般的な建物を想定していたが、対象モデルを実際に計測データを得ることができる建物5棟とすることとした。5棟のうち2棟は4層鉄筋コンクリート構造と、5層鋼構造の上部構造をもつ免震建物の実大試験体であり、3Dモデルの解析結果と実験結果を比較検討することで、より現象の理解を深めることができる。またこれらの建物をベースとして一部を変更することで、より鉛直加速度が大きく、もしくは小さくなる条件を抽出する。実大試験体を用いた本実験は、実測されることが稀な床鉛直加速度応答を詳細に検討できる非常に貴重なデータであるので、このデータ解析に重点を置くこととした。残りの3棟は平成25年度中に竣工予定の東北大学工学研究科の3棟の免震研究棟である。こちらは、建設計画上実測が可能となるのは2年目の終了間際となるので、3Dモデルの解析結果と、2体の実大試験体を用いた振動台実験結果から得られた知見をもとに生じうる現象の予測を立て、その予測精度を評価するというスタンスで実測データの検討を行う。 なお、実大実験結果に基づく免震建物の鉛直加速度応答特性については、平成25年9月に開催予定の国際会議で発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度に得た基礎的な知見をもとに、以下の研究項目を通して鉛直床加速度応答特性をより実際に即した形でとらえる。 (a) 実大免震建物の振動台実験結果の検討(前年度から継続):4層鉄筋コンクリート構造と、5層鋼構造の上部構造をもつ免震建物の実大振動実験結果を用いて、建物条件が異なる2つの免震建物について、より実際に近い条件で詳細に鉛直床加速度応答特性を考察する。また、詳細に試験体を模した3D解析モデルを用いて、免震層の固定条件、鉛直剛性、建物階数を変数として、鉛直加速度振幅が増大する条件を抽出する。 (b) 縮約免震試験体を用いた鉛直応答動特性の把握:鉛直床加速度応答振幅を得るには、免震建物の鉛直方向の減衰率を推定する必要がある。免震建物の鉛直方向の減衰率は、上部構造と免震層の剛性や質量の比率に応じた上部構造の減衰負担率によって変動する可能性が高い。そこで、鉛直動下で一番振動振幅が大きくなる床と免震層で構成される簡便な縮約免震試験体を作成し、減衰率と (1)入力振幅、(2)床と免震層の剛性比の関係を明らかにする。実験は、京都大学防災研究所の振動台を利用し、本年度4月に実施する予定である。 (c) 3棟の新築免震建物の鉛直応答動特性の計測:建物の常時微動を計測し、より現実的に鉛直床応答特性を把握する。計測を予定しているのは平成25年度中に竣工予定の東北大学工学研究科の3棟の免震研究棟である。建物への本格的な入居前に計測を行うことで、人の活動や、機械の稼働によって生じるノイズを最小限に抑えた理想的な環境を利用する。計測機は、すべて借り受ける手はずが整っている。今回使用する計測機が速度計であるため、ここでは、鉛直床速度応答を準用し、床応答特性を推定する。
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