本研究は空孔集合体(ボイド)と転位との相互作用を実験的に明らかにすることを目的としている。本研究では鉄中にボイドのみを形成させた試験片を作製し、その強度特性及び微細組織観察からボイドの強度因子を求めている。 鉄中にボイドのみを形成させる手段として、イオン加速器をによるイオン照射を実施した。透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、ボイドのみが導入された領域を作製することに成功した。この領域の硬さ測定にはナノインデンターを使用し、得られたデータをNix-Gaoモデルに基づく評価を行うことでバルク相当硬さを得た。また、透過型電子顕微鏡で得られたボイドの平均サイズおよび数密度にオロワンの式を適用し、強度因子を求めたところ強度因子は0.6となった。 また、照射後試験片にビッカース硬さ試験機によって加工を加え、転位を導入した後の試験片をTEMで観察し、転位がボイドにピン止めされているところを確認した。その張り出し角から強度因子を見積もったところ最大で0.8となった。 2つの異なる手法から得られた強度因子がそれぞれ異なることは重要な意味を持っている。今回観察されたボイドは、{001}面と{011}面を持つファセットボイドである。転位がファセットボイドのどの面を切るか、ボイドの中心からどれくらい離れた部分を切るか、といったボイドと転位との位置関係によって、ボイドの転位に対する抵抗力が変わってくることを、異なる2つの強度因子は示唆している。
|