本申請課題においては,光存在下において,自然水中の有機鉄錯体から生じる溶解性無機鉄の濃度を算出するための化学反応モデルを構築することを目的としている。目的達成のために,光照射条件下における鉄の動態変化に関わる種々の化学反応の存在を確認し,また,それらの反応の速度定数を調べて行く。それによって,光存在下における鉄の動態変化を予測可能とする。 本年度は,光照射によってもたらされる腐植物質の変化について調べた。腐植物質は環境中の鉄の錯形成に大きく関わるとされる有機物である。具体的には,疑似太陽光照射装置を用いて,腐植物質に疑似太陽光を照射し,その組成の変化を励起蛍光マトリクスと吸光光度法により観察すると共に,鉄との錯形成速度定数の変化を競合リガンド法により観察した。組成観察の結果,高励起波長側の芳香族様の構造部位やフミン様の構造部位が光分解された,一方でタンパク様の構造部位が生じることが示された。特に光分解の速かった部位は高励起波長側の芳香族様の構造部位で,12時間で5割の減少が観察された。また,タンパク様の構造部位の存在を示す蛍光は,12時間で2割程度の増加が観察された。 その様に構造が変化する中,錯形成速度定数には少なくともオーダー単位での変化は観察されなかった。芳香族やフミン様の構造部位は鉄との結合に関与すると考えられているが,錯形成に関しては,光によって部分的な分解を受けた後も鉄との結合能がほとんど変化しないものと考えられる。
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