本研究ではコンクリート構造物を対象とした、各種非破壊試験における測定値の物理的な意味の理解と、高精度な劣化予測手法の提案を最終目的として検討を行った。まず、コンクリート中の物質は空隙を経路として移動するが、空隙構造を代表する指標の抽出手法の開発を行った。本手法は、空隙構造の分析手法である水銀圧入法(MIP)の試料を、微小面積を残してエポキシコーティングし、MIPによる分析を行うものであり、これにより、連続空隙の最小径である閾細孔径が抽出される。 非破壊試験として、トレント法による表層透気試験および横浜国立大学で開発された表面吸水試験装置を用いてある程度乾燥したコンクリートを対象に検討を行った。開発された手法により抽出された閾細孔径は表層透気係数および表面吸水試験から得られた指標と高い相関(いずれも決定係数0.8以上)を示したことから、上記の非破壊試験では閾細孔径に支配された物質移動を測定しているものと考えられる。また閾細孔径と透水係数、ガスの拡散挙動、液状水の浸潤挙動との間にも高い相関を確認している。 ナノオーダーでの塩化物イオンの挙動の把握を目的として、まず深さ16-100nmのナノ流路の作製を行った。作製は東京大学生産技術研究所火原研究室の指導のもと行った。また、ナノ流路中の塩化物イオンの挙動を観察する手法を、TWENTE大学MESA+研究所のEijkel教授指導のもと検討した。その結果、塩化物イオンの存在により蛍光強度の減少する蛍光試薬(MQAE)を用いて、ナノ流路中の塩化物イオンを光学的に観察する手法を確立した。数mM程度のリン酸緩衝液および塩化カリウムの溶液中では、流路が10nm程度になると壁面の静電気的作用により、塩化物イオンのナノ流路への侵入が抑制されることを確認した。また理論的な検討も行い、実験値と定量的に対応することを確認した。
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