研究課題/領域番号 |
24860020
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水谷 司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10636632)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 動的非線形解析 / 在来線・新幹線高架橋 / 多点加速度計測システム / GPS / 動的解析アルゴリズムのWEB公開 / MATLAB言語 |
研究概要 |
今年度はJR東日本の在来線おより新幹線の高架橋の1)振動計測と2)動的非線形解析のアルゴリズムの構築を行った. 1)計測は仙台南長町の在来線・新幹線の高架橋の加速度応答の多点での長時間計測を行った.簡易に多点計測を実行するためのシステムの開発をまず行い,GPSで同期の取れる独立型加速度計測システムを構築した.JR東日本は現在に至るまで,高架橋の加速度計測を行っておらず,設計値と実測値とのずれがどの程度あるのか検証が行われていなかったが,著者らの計測により今まで分かっていなかったそのモード特性を明らかにすることができた.今後はさらに多点かつ長時間の計測を継続的に行っていく予定である. 2)動的非線形解析のアルゴリズムの開発を行った.当初の計画が順調に進み,3次元骨組みモデルの動的解析が行えるプログラムを多機能解析ソフトMATLAB言語により開発した.アルゴリズムは高度かつコンパクトになるよう開発した.商用ソフトでは分析できないような複雑で実現象をよりよく再現できる復元力特性をもつモデルの解析も可能となった.前述の計測結果と比較しても固有周期などのモード特性が近く,実現象をよく再現できる解析が可能となっている.今年度は材料非線形性を考慮できるようにしたので,次年度は幾何学的非線形性も考慮できるように引き続き発展させていく予定である.これらのアルゴリズムの理論マニュアルおよび使い方マニュアルも現在作成している.次年度よりアルゴリズムの公開をWEB上で始める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では,現在頻発している東北地方の地震動およびそれによる高架橋の地震応答をできる限り長期間捉えるために,まず実構造物の多点振動モニタリングのための環境を整えることを一つ目の目的とした.これに関しては,GPS同期がとれる加速度計測システムを新たに開発した.当初予定していた,独立型無線センサーシステムよりもより長期間かつ精度よく計測できるシステムを開発できたために,十分に目的を達成できたと考えている.開発したシステムを用いて,実際の高架橋の計測も行い, 長期間の多点加速度計測に成功した. 同じく研究計画ではモニタリング開始後,動的非線形解析用アルゴリズムの開発を始めることを第2の目的とした.モデルの作成は順調に進み,曲げ・せん断・軸・ねじれ剛性を有する3次元骨組みモデルを構築できた.非線形性については材料非線形を考慮し,その実装のために,材端剛塑性ばね法という塑性ヒンジを効果的に再現できるモデルを応用した.これらのアルゴリズムはすべて従来の言語よりもコンパクトかつシンプルにプログラム作成が可能なMATLABを利用した.MATLABでこれらのアルゴリズムを実装できたのは著者らがはじめてであると考える.現在もモデルを改良している.
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き高架橋の振動計測を行っていく予定である.近年,日本国が地震活発期に入ったと考えられており,常時に多点計測を行うことで,地震時の高架橋の応答を捉えることを期待している. 計測した結果を解析モデルの妥当性の検討にも応用し,実現象をよりよく再現できるモデルを構築していく予定である.昨年度は.高架橋本体のみモデル化していたため,今年度から,上部構造の上に乗っている電化柱のような付属物についても精緻にモデル化し一体解析を行う.昨年発生した笹子トンネルの天井版崩落事故を受けて,付属物の応答解析は非常に重要視されてきており,それらの期待に応える解析結果を導き出せるのではないかと考えている. 新幹線の高架橋は旧設計基準で設計されているため,よく知られている動的特性を持つと予想されるため,モデル化は比較的平易である.一方でその近くにある在来線の高架橋の鉄筋配置はJRが独自に開発したもので特殊で,復元力特性は非常に複雑であるため商用ソフトでの解析は困難であった.今年度は昨年度作成したアルゴリズムを用いて在来線の解析も実行する.
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