本研究の目的は、風による波浪の発生・発達を考慮した港内静穏度モデルを開発することである。その基本特性を把握するため、風路付水槽において実験を行った。実験では、ピトー管で風速の鉛直分布を測定することで摩擦速度を評価するとともに、5台の波高計により波の計測を行った。実験の結果、風による波浪の発達に対しては摩擦速度が重要なパラメータとなることが確認された。数値実験として、ナビエ・ストークス方程式に基づく数値モデルにより波面上の気流の計算を行った。この計算では、簡便に風の影響を把握するため、波面は固定として取り扱っている。数値モデルでは、波の峰の風上側で圧力が高く、風下側で低くなる傾向が認められた。これはマイルズの理論と同様の結果である。そこで、ブシネスク方程式にマイルズの理論を導入することで、風による波浪発達を再現することを試みた。ブシネスク方程式としては、当初マドセンら(1991)の式を用いていたが、分散特性が不十分だったため、中嶋ら(2005)の式を用いることとした。風応力の項については、光易・本田(1982)の式を基にモデル化した。以上により、摩擦速度を風のパラメータとする波浪発達モデルが構築された。本モデルによる計算結果を実験結果と比較したところ、ほぼ一致する結果が得られた。本モデルは、水面に作用する風応力により波形が増幅していく過程を再現しており、従来モデルより実現象に近い形で風の影響が考慮されている。波浪発達においては、風の影響だけでなく白波砕波も重要となるが、これについては十分な知見が得られていない。そこで、マイクロ波レーダにより現地観測を行い、実海域における砕波について検討したところ、追いつき砕波等の複雑な様相を示すことがわかった。白波砕波については、今後の課題であるが、本モデルは非線形な水面波形を直接考慮できるため、この点についても従来モデルよりも拡張性が高い。
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