研究課題/領域番号 |
24860023
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊川 雄司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (10637474)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / 銀クラスター / シランの酸化反応 |
研究概要 |
ポリオキソメタレートは、タングステン、モリブデンなどのオキソ酸が自己集合的に縮合したアニオン性金属酸化物分子である。ポリオキソメタレートは分子性が高く、構成元素の一部が欠損したポリオキソメタレートは無機配位子として、欠損部位に多核金属構造を構築することが可能である。本研究では、触媒、磁性、電気化学、光化学材料として近年注目されている銀クラスターに着目した。銀クラスターを有するポリオキソメタレートを新規に合成し、その機能を明らかにすることを目的とした。 欠損型ポリオキソメタレートを有機溶媒中で酢酸銀と反応させることで、銀クラスターを有するポリオキソメタレートを合成した。用いた欠損型ポリオキソメタレートは有機溶媒に可溶なアルキルアンモニウム塩であり、ケイ素とタングステンからなる二欠損型ポリオキソメタレートで検討した。還元剤の添加剤により、四核、六核の銀クラスターを作り分けることに成功した。 六核銀クラスターは八面体構造であり、単結晶X線構造解析、電位差滴定、元素分析から、六核銀クラスターの価数は4+(銀原子一個あたり2/3価(サブバレント))であることが明らかとなった。これまで、サブバレント六核八面体銀クラスター構造はいくつか報告されているが、いずれの化合物も、六核八面体銀クラスターが酸素、リン、銀原子で架橋された連続構造であった。これに対し、今回合成に成功した化合物は、銀クラスターがポリオキソメタレートに囲まれることにより、銀クラスター間の距離が1.8 nm以上離れており、独立に存在していることが明らかとなった。このような独立したサブバレント六核八面体銀クラスターは、はじめての報告であった。 これら四核、六核銀クラスターを有するポリオキソメタレートを触媒量用い、水を酸化剤とすることで、有機シランからシラノールへの転換反応が高効率で進行することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、ケイ素、タングステンから成る二欠損型ポリオキソメタレートのアルキルアンモニウム塩と酢酸銀をアセトン中で反応させることで銀クラスターを有するポリオキソメタレートの合成に成功した。現在までに合成されてきた金属を導入したポリオキソメタレートは金属-酸素クラスター構造であり、金属間相互作用があるポリオキソメタレートは二核構造に限られていた。 本研究課題で、二核以上の金属間で相互作用のあるポリオキソメタレートの合成にはじめて成功した。合成時の還元剤の有無で、四核、六核銀クラスター構造を有するポリオキソメタレートの作り分けにも成功した。六核銀クラスターは八面体構造であり、単結晶X線構造解析、電位差滴定、元素分析から、六核銀クラスターの価数は4+(銀原子一個あたり2/3価(サブバレント))であることが明らかとなった。このようなポリオキソメタレートの合成は先例がなく、ポリオキソメタレートの化学、金属クラスターの化学に新たな可能性を示すことができた。 これら四核、六核銀クラスターを有するポリオキソメタレートを触媒量用い、水を酸化剤とすることで、有機シランからシラノールへの転換反応が高効率で進行することを明らかにした。 これらの成果は、Chemical Communicationsに掲載された。また、日本化学会において発表した。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度は還元剤の添加による核数の制御に成功した。本年度は、合成時に用いる銀原料を変えることで、銀の核数の異なる化合物を合成し、単結晶X線構造解析可能な単結晶を得られるよう種々の条件で再結晶を試みる。得られた単結晶から分子構造を明らかにし、元素分析、IR、UV-VIS、NMR、熱質量測定などでキャラクタリゼーションを行う。 さらに、鋳型となる欠損型ポリオキソメタレートを変えて新規化合物の合成を検討する。たとえば、中心元素がケイ素の場合と同じ構造を有することが知られている、ゲルマニウム、リンを中心元素にもつ、二欠損型ポリオキソメタレートを用いることで、銀-銀間の距離の制御、クラスターの価数の制御が可能であると考えられる。また、ポリオキソメタレートの欠損数を変えることで、より大きなクラスター構造の構築が期待される。これらの研究を行うためには、鋳型となる欠損型ポリオキソメタレートの、これまで報告されているアルカリ金属塩ではなく、有機溶媒に可溶な、アルキルアンモニウム塩を新規に合成することが重要となる。 このようにして得られた核数、電荷の異なるクラスターを有するポリオキソメタレートの電気化学特性、光学特性の違いについて検討する。 これらの得られた結果を取りまとめ、学会誌への投稿や、学会発表を行う。
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