本研究の目的は、原子炉鉄鋼材料における照射欠陥の拡散挙動を、①累積照射量に大きく依存する材料のミクロ組織発達、②材料の化学組成や加工方法など経年劣化管理プログラムで考慮されるパラメータ、と関連付けて測定する実験技術を開発し、ミクロ組織の核形成と成長に与える欠陥の拡散挙動を明らかにすることである。 当初計画では、平成25年度は、薄膜化した鉄基希薄合金(組成を変化させた原子炉圧力容器の模擬材)を東京大学・原子力専攻のバンデグラーフ加速器で低温イオン照射し、照射欠陥濃度に依存する電気抵抗率の回復挙動を、その場等時焼鈍によって測定する予定であった。しかしながら、共同利用設備である加速器本体の故障により新たな照射実験を実施する事ができなかった。そこで、材料パラメータを変化させた未照射の試料を多数準備して、照射試料と同じ環境で電気抵抗率の測定を行い、測定結果に与える試料膜厚の影響、不純物の影響、溶質原子濃度の影響、および溶質原子の重畳効果について、定量的な知見を得た。そして、これに基づいて、過去の実験データの再評価を行った。 その結果、照射量と電気抵抗率の変化量の関係は、1^-4 dpa 程度までは概ね比例関係にある事が示された。また、すべての鉄基希薄合金は、純鉄と比較して電気抵抗率の変化率が大きい事が示された。これは、フレンケル対の抵抗率への寄与、あるいは欠陥性成功率の何れかが、固溶型の溶質元素の存在によって変化することを示している。 また、二つ以上の溶質元素を含む鉄基希薄合金の抵抗率は、個々の溶質元素の寄与率から推定される値より、はるかに大きい事が示された。
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