本研究の目標は6桁のダイナミックレンジを有する分光計測システムを開発し,磁場閉じ込め高温プラズマからの発光を計測することである. 分光器の原理上決まる計測システムのダイナミックレンジの上限を評価した.光線が分光器内の光学素子を通過する際,光学素子の端で光線が遮られる.このようにして生まれた光線断面での不連続な強度分布が,回折の影響により結像面での像の広がりをもたらし計測のダイナミックレンジを制限していることを明らかにした.回折格子の大きさが170mmの研究室保有の低Fナンバー分光器で6桁程度のダイナミックレンジが限界であることがわかった.分光器内での回折効果の抑制により,さらなる高ダイナミックレンジ分光計測の実証を目指した.我々は分光器内の光路上に,透過率がガウス分布状であるアポダイジングフィルタを設置し,光線断面端部を減光することで,なめらかな強度分布を有する光線を生成した.その結果,分光器のスループットは減少するが,計測のダイナミックレンジをさらに10倍程度向上できることも明らかになった. 低Fナンバー分光器を用いた分光システムを,核融合科学研究所で生成される高温水素プラズマからの発光計測に適用した.スペクトル裾部に重畳されて計測される連続光強度の不確かさによりダイナミックレンジが約5桁と理論値よりも減少したが,これまで報告されたことのない高いダイナミックレンジでの水素原子線プロファイルの計測に成功した.計測した水素原子線プロファイルとプラズマ中のイオン温度,密度分布を用いて,プラズマ中の中性水素原子密度を導出する手法を開発した. さらに,動的シュタルク効果によりスペクトル裾部が偏光することを利用して計測スペクトルを連続光と分離する手法を提案し,高精度偏光分離装置も開発した.
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