研究課題/領域番号 |
24860039
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷垣 健一 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40631875)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 衝撃工学 / ダイヤモンド / グラファイト |
研究概要 |
縦型一段式火薬銃を用い,六方晶ダイヤモンドの衝撃圧縮合成を行った.上部の火薬燃焼室にライフル用無煙火薬を充填し,銃用雷管で着火するもので,燃焼ガスの圧力で隔壁版が破られることにより飛翔体が垂直下向きに高速で発射される.飛翔体弾頭として黄銅製円盤を用いた.弾頭にはポリカーボネート製の円柱状サボを取り付け,サボ後部に磁石を内挿した.飛翔体が銃身に設置されたコイルを通過すると,磁石によりコイルに電流が発生する.飛翔体の速度は各コイル間の電流信号の時間差から決定できる.火薬装填量を調整することにより,飛翔体速度を約400~900m/sの範囲で3段階に変化させた. 黒鉛を銅粉と混合して圧粉固化体とし,SUS製の肉厚円筒容器に装填し,さらにそれをタングステン製の上下パンチで挟み込んだものをターゲットとし,衝撃加圧を行った.このときの衝撃圧力は,黄銅とタングステンのインピーダンスマッチング計算および飛翔体の速度から,15~25GPaと推定された.負荷持続時間は黄銅の音速と飛翔体の厚さから約2μsであった. 衝撃圧力負荷後,硝酸処理により金属成分を除去しXRD分析を行った.特定の条件で衝撃加圧したターゲットから黒鉛と異なるピークが観察されたが,このピークは六方晶・立方晶ダイヤモンドのピークとも異なるものであった.負荷持続時間とピーク角位置から,これまでに理論的に予測されていたダイヤモンドと黒鉛の中間層が生成され,回収された可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒鉛をターゲット原料にし,衝撃圧縮することによりダイヤモンドを合成する試みは多くされてきているが,中間相の生成について言及された研究は多くはない.本年度の実験結果では、チャオイトとZカーボンと呼ばれる2種類の構造のピーク位置にピークが観察された。 チャオイトは古くから知られている中間相であり、これはダイヤモンドよりは黒鉛寄りの物質であろうと予測されている.チャオイトの弾性定数に対する研究はほとんど行われていないが,これは提案されている構造から,グラファイトと大差ない弾性特性しか持たない(ダイヤモンドには遠く及ばない)と予測されるためである.本研究でチャオイトが生成されることによる弊害はないと考えている.それは,チャオイトはその構造から黒鉛と同程度の酸化処理で除去できると考えられるからである. ZカーボンやMカーボンは、近年の第一原理シミュレーションにより、高圧下で存在しうることが指摘された構造である.これらの構造はダイヤモンドを上回ることはないもののほぼダイヤモンドに匹敵する弾性定数を持つことが示唆されている.しかしこれらについては実験的にその実在が証明されたことはない.高圧相の研究については近年さまざまなシミュレーションが行われ,多くの報告がされている.本年度の実験条件でZカーボンやMカーボンが生成されていることが確認されれば,これらと同様に準安定相である六方晶ダイヤモンドの生成,結晶成長などについて,既存のシミュレーション研究から多くの知見が得られることが期待でき、本研究の最終目的である10μm級六方晶ダイヤモンドの合成に大きく役立つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の研究結果で得られた未知の炭素成分について分離を試みる.合成後の炭素成分のうち大半は黒鉛であると考えられる.黒鉛は熱硝酸や過塩素酸により酸化除去が可能である.大部分がsp2結合であると考えられるチャオイトも同様に酸化除去されると考えられるが,チャオイトについては本研究の興味の外にある.一方,大部分がダイヤモンドと同じsp3結合であるZカーボン相が存在していれば,この酸化処理でも残留するはずである.得られた残留粉末をXRD分析し,これがZカーボンであると確認されれば,これは世界初の成果となる.粉末を樹脂に埋め込み,ピコ秒超音波法による弾性定数計測を行い,シミュレーションの予測と比較する. また,中間相だけでなく,飛翔体厚さを5mmから2mmに変更することで持続時間を短縮しより瞬間的な高圧力を負荷させる,圧粉固化体の封入様式を変更する,などの工夫を行い,当初の目的である10μm級六方晶ダイヤモンドの合成を行い,弾性定数の精密計測を行う.
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