前年度に引き続き縦型一段式火薬銃を用い,黒鉛を原料物質とした炭素高圧相の衝撃圧縮合成を行った.昨年度からの改善点として,火薬銃の弾頭となる金属飛翔体を薄くすることにより質量を減らし,また推進薬として用いている無煙火薬の装填量を調整して速度を増加させることにより最大衝撃応力を増加させ,より広い条件下で実験を行うことを可能とした.原料となる高純度黒鉛を純銅粉末(いずれも平均粒経50μm)と混合して金型に装填して加圧することにより,相対密度約0.7の圧粉固化体を作製した.これを両端研磨した後にSUS製の肉厚円筒容器に装填し,さらにそれをタングステン製のパンチで挟み込んだものをターゲットとし,衝撃圧縮を行った.衝撃圧力負荷後,切削処理にて容器から圧粉固化体を取り出し,さらに硝酸処理により金属成分を除去し,炭素成分を回収した.これにXRD分析を行うことにより,衝撃加圧したターゲットが原料黒鉛とは異なるピークを示すことを確認した.近年の第一原理計算により、高圧下でのみ安定となるような炭素高圧相の存在が複数提案されている.これらの構造はダイヤモンドと同じくsp3結合のみによって構成され,ダイヤモンドに匹敵する弾性定数や硬度を持つ可能性が指摘されている.これらの候補物質の高圧下でのXRDピーク位置を,理論計算により決定した弾性定数を用いて常圧下での値に補正し,実験結果との比較を行った.これにより,Sカーボンと呼ばれる構造が衝撃合成され,常温常圧下に回収されたことが示唆された.衝撃圧縮によってこれらの高圧相が合成されたという報告例は少なく,実験例の殆どは静的高圧下で存在が確認された程度である.本研究により高圧相が常温常圧下に回収されたことにより,今後これら新たな炭素物質の機械的性質について調査することが可能となる.
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