本研究課題では,都市大気境界層における物質輸送量の幾何依存性を把握するとともに,輸送量を定量的に評価する指標であるバルク運動量・物質輸送量における相似関係を明らかにすることを試みた.2つのサブテーマを扱い,各年度の研究対象とする予定であったが,それぞれを並行して行い,以下に記す通り,一定の結果を得ることができた. 一つ目のサブテーマとして,都市の粗度要素を模した縮小模型を用いた風洞実験により,粗度配列,蒸発面サイズを変更した場合の床面蒸発フラックスを塩分法により測定し,バルク輸送係数を算出することを行った.その結果,蒸発面サイズ拡大による輸送系数の減少傾向が滑面の場合と異なることや,粗度配列によっても変化することを明らかにした.それらにより,都市大気境界層を対象とした輸送量モデリングの発展に寄与し得るデータを提示することができた. 二つ目のサブテーマでは,都市の粗度要素を模した縮小模型を用いた風洞実験により,粗度周辺の水蒸気濃度分布を測定し,濃度境界層の発達過程,粗度近傍キャニオン内の濃度分布を分析することを行った.前述のサブテーマの結果を基に,輸送量を示す指標となる運動量粗度やスカラー粗度と言ったパラメータ同定を行い,バルク運動量・物質輸送量間に相似関係が成立することを示した.また,既往研究により得られた相似モデル式と照らし合わせることにより,スケールの異なる本課題対象の実験系においても相似則が成立することを示した.これらの結果は,縮小スケールにおけるモデル式を提示しただけでなく,他の研究における異スケールによる測定結果でのバルク輸送量モデル化に寄与知るデータであると言える. 以上の両サブテーマについて,本研究課題で掲げた研究目的に対して一定の成果が得られたものと考えられる.
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